1作目はファミリードラマ 2作目は壮大なオペラ 進化した続編に刮目! 『ヘルレイザー2:ヘルバウンド』

映画スクエア

著者名:飯塚 克味

1作目はファミリードラマ 2作目は壮大なオペラ 進化した続編に刮目! 『ヘルレイザー2:ヘルバウンド』

飯塚克味のホラー道 第73回『ヘルレイザー2:ヘルバウンド』

 皆さま、新年明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願い致します。

 さて、新年最初の一発ですが、いきなり旧作のリバイバルから紹介させてもらいます。昨年の第一作の4K版公開に続き、シリーズ4作目までの4K版上映が決まった『ヘルレイザー』シリーズですが、その内から『ヘルレイザー2:ヘルバウンド』をピックアップしたいと思います。

 1987年に一作目が作られ、2022年には10作目も作られた息の長いシリーズですが、自分がシリーズ最高傑作と思っているのがこの第2作です。『血の本』がベストセラーになったクライヴ・バーカーの小説にはハリウッドも目を付け、1985年に『アンダーワールド』、1986年に『ロウヘッド・レックス』が実写化されましたが、いずれもバーカーの期待を裏切る出来となり、1987年にはバーカー自身が『ヘルバウント・ハート』の監督に乗り出しシリーズ一作目『ヘル・レイザー』を完成させます。その年の東京国際ファンタスティック映画祭でもいち早く上映され、大いに客席を沸かせたのですが、自分はどうにも乗れずにいたんです。

 魔導士こと、セノバイトたちのデザインは従来のホラーとは一線を画したセンスだし、わずかな血液から再生を果たし、その後、無残な最期を迎えるフランクの死にざまも見事でした。ただ全体的な流れや、感情面での表現力に不満を感じてしまい、特にクライマックスでのヒロイン、カースティと魔導士たちの対決はラスボスのピンヘッドが最初にやられてしまうというあり得ない流れで、かなり興ざめしてしまいました。なのでその翌年、あっという間に作られた続編は、あまり期待を抱かずに観たのです。

 自分が観たのは、今はなき超巨大劇場、渋谷パンテオンで開催されていた東京国際ファンタスティック映画祭’88のニュー・ワールド・ピクチャーズ特集でのオールナイト。上映された4本は『エルヴァイラ』『ヘルレイザー2』『カーフュー』『ゾンビ・コップ』という当時のホラーファンには何とも嬉しいラインナップでした。ここで観た『ヘルレイザー2』が本当にすごかった。

1作目はファミリードラマ 2作目は壮大なオペラ 進化した続編に刮目! 『ヘルレイザー2:ヘルバウンド』

 まず第1作のおさらいが冒頭にあるのですが、先ほど書いたピンヘッドが最初にやられる順番を修正していたのです。製作に回ったクライヴ・バーカーが機嫌悪くならないのか、心配になるような編集ですが、思わず「今回の監督、分かっているじゃん」と心の中でつぶやいてしまいました。メインタイトルになると、音場がいきなり広がり、サラウンド感満載。そしてピンヘッド誕生の顛末から現代に舞台を移し、流れるように映画が進んで行きます。

 クライマックスではカースティと魔導士たちの間に、ある種の信頼関係のようなものが生まれ、新たな魔導士との対決シーンという見せ場も用意されています。またリバイアサンが支配する地獄の迷宮も広大なショットの連続で、もうほとんど『スター・ウォーズ』レベルの迫力です。本シリーズならではの痛々しい描写も満載。エピローグまでサービス盛りだくさんで大満足させてくれました。

 『ヘルレイザー2』の監督を務めたトニー・ランデルは、ジョン・カーペンター監督の『ニューヨーク1997』(1981)などで視覚効果を担当し、その後、編集者としてキャリアを積んだ人物。本作が初監督で、撮影時には緊張で自分のオフィスから動けなくなってしまったこともあったそうですが、作品にはそんな形跡は微塵もありません。1年後に続編ができた経緯は、実は2作続けて脚本の制作が進んでいたからです。監督によると「1作目はファミリードラマ。2作目は壮大なオペラ」とのこと。1作目よりスケールアップした魔導士たちの活躍に注目してほしいですね。

 4Kレストアされた本編ですが、今回も例によって、海外から取り寄せたイギリス版の4K UHDでチェックしました。暗い部分の黒はしっかり沈み、魔導士たちのディテールはしっかり確認できます。特に今回新たに登場したチャナード医師が変貌した、頭に男性器がくっついたような魔導士の凄みは何倍にも増しています。ラストに突然登場するヘルレイザー版モノリスのような物体も隅々まで見たくない細部が見えて笑えるほど。音も鎖のチャラチャラした音がクリアになって、不気味さマシマシです。是非、映画館で楽しんでください。

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1作目はファミリードラマ 2作目は壮大なオペラ 進化した続編に刮目! 『ヘルレイザー2:ヘルバウンド』

飯塚克味(いいづかかつみ)
番組ディレクター・映画&DVDライター
1985年、大学1年生の時に出会った東京国際ファンタスティック映画祭に感化され、2回目からは記録ビデオスタッフとして映画祭に参加。その後、ドキュメンタリー制作会社勤務などを経て、現在はWOWOWの『最新映画情報 週刊Hollywood Express』(毎週土曜日放送)の演出を担当する。またホームシアター愛好家でもあり、映画ソフトの紹介記事も多数執筆。『週刊SPA!』ではDVDの特典紹介を担当していた。現在は『DVD&動画配信でーた』に毎月執筆中。TBSラジオの『アフター6ジャンクション』にも不定期で出演し、お勧めの映像ソフトの紹介をしている。


【作品情報】
ヘルレイザー2:ヘルバウンド
2024年1月12日(金)よりシネマート新宿、シネマート心斎橋にて日変わり上映、ほか順次公開
キングレコード提供 フリークスムービー作品
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