「マリグナント 狂暴な悪夢」 ”つまらなかったら、映画見るのを止めた方がいい” それくらい最高

映画スクエア

著者名:飯塚 克味

「マリグナント 狂暴な悪夢」 ”つまらなかったら、映画見るのを止めた方がいい” それくらい最高

飯塚克味のホラー道 第8回「マリグナント 狂暴な悪夢」

 映画館で上映後、前を歩いていた男性二人組が「この映画がつまらなかったら、もう映画見るのを止めた方がいいよ」と言っていたのを耳にした。今回の『マリグナント 狂暴な悪夢』はそれくらい最高な一本である。

 監督はジェームズ・ワン。ホラーファンには『ソウ』『死霊館』『インシディアス』という大ヒットシリーズの生みの親として、また普通のエンタメとしては『ワイルド・スピード SKY MISSION』(2015)『アクアマン』(2018)の大ヒット作で知られるハズレのない監督だ。ホラーのシリーズ作品には必ず製作スタッフとして参加はしていたが、監督作としてのホラーは『死霊館 エンフィールド事件』(2016)以来となる。久々のホラー作品は、全米でR-18という成人指定を受け(それほど過激なのだ)、思うように興行収入は伸びなかったが、ジェームズ・ワンのやりたかったことはズバリこれ!という勢いがあって、体感時間も異常なまでに短く感じられた。

 ストーリーは、妊娠中の若い女性マディソンがDV夫に暴力を振るわれ、その晩、夫が原因不明の死を遂げるところから始まる。一体、なぜ夫は死んだのか?その後、マディソンの周辺では謎の拉致事件や殺人事件が連続し、マディソンは警察からも疑いをかけられてしまうというもの。

 各々のエピソードが段々と収束し、意外過ぎる展開を見せる後半は、ワン監督がメジャースタジオのエンタメ作品で培った確かな演出力で観客の目をくぎ付けにしてくれ、眠気も吹っ飛ぶエネルギーを感じさせてくれる。特に触れておきたいのが、映像的快感である。今回は登場人物の周囲をグルグル回るカメラワークが繰り返されるが、後半のアクションシーンでその効果が大いに活きる場面があって、思わず鳥肌が立ってしまった。

 ワン監督は80年代のホラー映画に多大な影響を受けており、本作にも『サスペリア』のダリオ・アルジェントをはじめとする名監督の影響が色濃く反映されているのは、見る人が見れば一目瞭然だろう。ネタバレになってしまうので、具体的なタイトルは避けるが、レイトショーで大ヒットした有名なアングラホラーの設定が軸になっているのは、当時を知る者には驚きでしかない。パンフレットにはその辺の解説もあるので、興味のある方はそちらをご一読いただきたい。

 主演のアナベル・ウォーレスはなかなかパッとしなかったところを『死霊館』ユニバースの一本である『アナベル 死霊館の人形』(2014)で主役に大抜擢。その後、順調に羽ばたくかと思われたが、トム・クルーズと共演した大作『ザ・マミー/呪われた砂漠の王女』(2017)がまさかの大コケという不運に見舞われてしまった。そんな幸のない彼女を再び主役に起用し、しかも大快作にしてしまうあたり、ジェームズ・ワンの義理堅さを感じずにはいられない。

 難なのが、やや地味とも言えるポスタービジュアルだが、これも作品を観れば納得。映画を観る前と観た後だと、全く別のところに目が行くから不思議だ。後々、配信やパッケージで観ても、本作の衝撃の度合いが落ちることはないだろうが、映画館で観なかったことを後悔することだけは確実だと言っておこう。とにかく公開が始まっているので、迷わず映画館に駆け込んでほしい。『マリグナント 狂暴な悪夢』はそれだけ価値のある一本なのだ。

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「マリグナント 狂暴な悪夢」 ”つまらなかったら、映画見るのを止めた方がいい” それくらい最高


「マリグナント 狂暴な悪夢」 ”つまらなかったら、映画見るのを止めた方がいい” それくらい最高

飯塚克味(いいづかかつみ)
番組ディレクター・映画&DVDライター
1985年、大学1年生の時に出会った東京国際ファンタスティック映画祭に感化され、2回目からは記録ビデオスタッフとして映画祭に参加。その後、ドキュメンタリー制作会社勤務などを経て、現在はWOWOWの『最新映画情報 週刊Hollywood Express』(毎週土曜日放送)の演出を担当する。またホームシアター愛好家でもあり、映画ソフトの紹介記事も多数執筆。『週刊SPA!』ではDVDの特典紹介を担当していた。現在は『DVD&動画配信でーた』に毎月執筆中。TBSラジオの『アフター6ジャンクション』にも不定期で出演し、お勧めの映像ソフトの紹介をしている。


【作品情報】
マリグナント 狂暴な悪夢
公開中
配給:ワーナー・ブラザース映画
© 2021 Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved

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