主役は「主要人物たちの情熱」 レンブラントめぐる人々追うドキュメンタリー ウケ・ホーヘンダイク監督

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主役は「主要人物たちの情熱」 レンブラントめぐる人々追うドキュメンタリー ウケ・ホーヘンダイク監督

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 巨匠画家レンブラントをめぐる人々の姿を追ったドキュメンタリー映画「レンブラントは誰の手に」(本日公開)から、ウケ・ホーヘンダイク監督のインタビューが公開された。

 ホーヘンダイク監督は、「みんなのアムステルダム国立美術館へ」で美術館の舞台裏に深く切り込んだオランダのドキュメンタリー作家。本作で家の中を撮影できるほどに出演者と深い信頼関係を築いた方法や、オランダ政府が関わる撮影での苦労、レンブラントの《夜警》を題材にした今後の作品のことなどを明かした。

 「レンブラントは誰の手に」は、没後350年以上経った今でも絶大なる人気を誇るオランダの巨匠画家、レンブラントの絵画をめぐる人々の姿を追ったドキュメンタリー映画。「光と影の魔術師」の異名を持つレンブラントが残した作品の美と魅力のほか、作品をめぐる画商、コレクター、美術館が生み出す物語をドラマティックに映し出している。

【インタビュー】

Q.ヤン・シックス氏を本作の主人公にしようと思った経緯を教えてください。

2016年から、レンブラントの偉大なレガシーを追う旅に出ました。その最中、私の地元であるアムステルダムで、かの有名なシックス家の御曹司であるヤン・シックス11世が、家族の歴史や自身の父親のプレッシャーから逃れようとしているということを知りました。私は映画監督として、彼が素晴らしい主人公になりうると即座に思いました。誰もが共感できる、普遍的な動機が彼の中に潜んでいると感じたのです。ヤンの、自分だけが持っている価値を証明しようとする情熱、あるいは、欲求とも言うべき熱意は、まるでシェイクスピアの戯曲の中に登場する主人公のようです。シックスが、自分の目標を達成するためならすべてを賭ける意志があることは、最初から明らかでした。

Q.美術に関する作品を作り続けるのは何故ですか?

私の監督作『ようこそ、アムステルダム国立美術館へ』(08)の後、(ほとんど偶然に)オランダ公共放送の番組編集者にアート映画を作るように頼まれました。それが、美術を専門にするようになった理由です。私自身がどれだけアートを楽しんでいるかは言うまでもありません!

Q.多くのレンブラント愛好家たちと接して感じたことは何ですか?

研究中プライベートコレクターに会ったとき、彼らに魅了されました。 私に大きな刺激を与えたのは、私たちの国で最も有名な画家へ注ぐ彼らの愛です。それぞれに全く違う世界に生きながらも、少なくとも彼ら全員に共通するものが一つだけある。それは、レンブラントに対する強烈な想いです。レンブラント本人ではなく、むしろ、主要人物たちの情熱こそがこの作品の主役です。

Q.どのようにして出演者との信頼関係を築きましたか?

私が信頼を得るための方法は、各登場人物に本当に多くの時間を使って、友達のように近い距離感で接することです。今でも全員と連絡を取っているくらいです。これが実現したのは、彼らの信頼と率直さのおかげです。

Q.レンブラントという人物にどんな印象をもっていますか?好きなレンブラント作品は?

彼のように人間の感情を表現できる画家は他にいません。 レンブラント作品は、人間の賛歌です。お気に入りの作品は間違いなく、バックルー公爵の所有する《読書をする老婦人》です。

Q.絵画がとても美しく撮られていたが、撮影でこだわったところはありますか?映画館で鑑賞する際に注目してほしいポイントがあれば教えて下さい。

現代の驚くべき技術では、カメラを使うことで自分の目で見るよりもずっと絵画に近づくことができます。私たちは、絵画を生き生きと見えるように撮影するだけでよかったのです。観客は私のお気に入り《読書をする老婦人》をほんの一瞬見るだけで、まるで絵の具に触れて自分で絵を描いているかのように、とても近くで感じることができると思います。

Q. 『ようこそ、アムステルダム国立美術館へ』(08)や、日本でもとても話題となった『みんなのアムステルダム国立美術館へ』(14)、そして本作と、アムステルダム国立美術館とは長年の付き合いだと思いますが、撮影はスムーズだったのでしょうか。

アムステルダム国立美術館のスタッフを10年以上知っているという大きな利点のおかげで、美術館のほとんどすべてを撮影することができました。苦労したことは、スタッフや政治家による絵画の商談の際はいつも、部屋への入室が許されないことでした。

Q.映画が公開された後、国内や周囲からはどんな反響がありましたか?

本作はオランダで素晴らしい評価を受けました。 しかし公開からたった1週間のとき、パンデミックの影響によりすべての映画館を閉鎖しなければならなりませんでした。これは私たちにとって大きな挫折でしたが、宣伝に大きな力を注いでいたので、初週だけで10,000人もの人が劇場に映画を観に来てくれました。

Q.今後はどのような作品を撮りたいと思っていますか?

現在は、20世紀の偉大な作曲家カールハインツ・シュトックハウゼンについての映画に取り組んでいます。 そして、アムステルダム国立美術館での映画制作も再開しました。レンブラントの最大の絵画である《夜警》の魅力的な修復の過程を今後数年間追跡していきます。

Q.映画を楽しみにしている日本のファンへメッセージ

日本の皆さん、私たちがどれだけ離れていても、アートは私たちをつないでくれる共通言語です。コロナ危機に直面したこのような複雑な時期だからこそ、喜びと安心をもたらしてくれるアートが大切なのです。日本のみなさんが私の映画を通してオールドマスターアートの世界を愛してくれることを願っています。

作品一覧