全米はホラー激戦の秋 4,000万ドルを超える大ヒット作が早くも配信 『バーバリアン』レビュー

映画スクエア

著者名:飯塚 克味

飯塚克味のホラー道 第30回「バーバリアン」

 今年のハロウィンも過ぎ去ったが、全米では例年通り、様々なホラー映画が公開された。一番のヒットとなったのは『スマイル』(原題)で、何と興収ほぼ1億ドルの大ヒット。次はシリーズ3作目で完結編となる『ハロウィン THE END』。こちらは残念ながら日本での公開は来年4月と、随分先になってしまった。製作費がわずか25万ドルながら1000万ドルという最高の利益率を出した『テリファー2』(原題)なども日本公開が待たれるが、今回紹介するのは、そんな激戦区の中で9月に公開され、1位に返り咲いた『トップガン マーヴェリック』を抑えて首位奪還を果たした『バーバリアン』だ。現時点で、全米で4000万ドル超えの大ヒットを記録した。そんな話題作が、いち早く日本でもディズニープラスで観ることが可能になった。これはホラーファンなら観ない訳にはいかないだろう。

全米はホラー激戦の秋 4,000万ドルを超える大ヒット作が早くも配信 『バーバリアン』レビュー
『バーバリアン』 ディズニープラスの「スター」で配信中 © 2022 20th Century Studios

 面接のため、夜中のデトロイトに到着した若い女性テス。予約していたレンタルハウスのキーボックスを開けてみたら、鍵はない。雨の中、車でレンタル業者に電話をしてみると、家の灯りが点く。ノックしてみると、男性が先に入ってくつろいでいた。彼はキースと名乗り、話を聞くと違うサイトからの予約でダブルブッキングされた可能性を示唆する。怪しげなキースの雰囲気に不安を感じながらも、やむを得ず、その家で一晩を過ごさざるを得なくなるテス。というのが大体のストーリーだが、後半へと進むに従って、どんどん意外な方向に話が進み、タイトルにあるバーバリアン(野蛮人)の正体、そして隠されたもう一つの意味も見えてくる仕掛けになっている。

 監督を務めたのは俳優として活躍しているザック・クレガー。多くのTVシリーズや短編を監督したこともあり、長編作品も共同監督で2本作った経験がある。今回、単独での監督は初だが、夜と昼で街が違った顔を見せたり、映画館を意識した暗闇演出を見せるなど、巧みな手腕を発揮して、最後まで飽きさせない。

 主演のテス役にはジョージナ・キャンベル。ガイ・リッチー監督の『キング・アーサー』(2017)やTVシリーズの『クリプトン』などの出演歴はあるが、長編映画の主演は初めてだ。脇を固める男性陣はいずれも有名どころ。同じ家に居合わせるキースはビル・スカルスガルド。言うまでもなく、『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』(2017)の、恐怖のピエロことペニーワイズ役で、世界中を恐怖のどん底に落とした人物だ。どうみても普通の人に見えない男を、観客の期待通り演じてくれている。家の持ち主AJを演じるのはジャスティン・ロング。キャリアも長く、たくさんの映画に出ているが、ジャンル映画への出演も多く『ジーパーズ・クリーパーズ』シリーズや、サム・ライミ監督の『スペル』(2009)、セイウチに改造されてしまう『Mr.タスク』(2014)といったところが記憶に残る。今回もヒト癖ある人物を嬉々として演じていて、思わずニヤついてしまった。

 あと面白いのが映画の作りだ。前半と後半でしっかり区切られ、しばらくは別の映画を見ているのではないかと錯覚するようになっている。フィルム時代であれば、別のロールを間違えて映写機にかけてしまったのではないかと思い込んでしまうはずだ。やがて前半の流れに沿う形になっていくので、安心してほしいのだが、かなり楽しめることは間違いない。

 映画の早期の配信については是非があるのは承知しているが、全米で話題になった直後に、日本語字幕付きで本作のような作品を楽しめるのは、ファンなら歓迎せざるを得ないだろう。数か月待って劇場にかかったものの、公開規模が小さ過ぎて観たい時間に合わないなど、最近の映画館事情は、ホラーファンにとってあまりに厳しすぎる。もちろん映画館でそれなりの規模で公開されることがベストだが、こうして鑑賞できるのも、ある意味ありがたいと言えるだろう。是非、視聴環境を整えて楽しんでもらいたい。

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全米はホラー激戦の秋 4,000万ドルを超える大ヒット作が早くも配信 『バーバリアン』レビュー

飯塚克味(いいづかかつみ)
番組ディレクター・映画&DVDライター
1985年、大学1年生の時に出会った東京国際ファンタスティック映画祭に感化され、2回目からは記録ビデオスタッフとして映画祭に参加。その後、ドキュメンタリー制作会社勤務などを経て、現在はWOWOWの『最新映画情報 週刊Hollywood Express』(毎週土曜日放送)の演出を担当する。またホームシアター愛好家でもあり、映画ソフトの紹介記事も多数執筆。『週刊SPA!』ではDVDの特典紹介を担当していた。現在は『DVD&動画配信でーた』に毎月執筆中。TBSラジオの『アフター6ジャンクション』にも不定期で出演し、お勧めの映像ソフトの紹介をしている。


【作品情報】
『バーバリアン』
ディズニープラスの「スター」で配信中
© 2022 20th Century Studios

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