唯一無二、永遠の名作を是非スクリーンで 「ナイト・オブ・ザ・リビングデッド」【飯塚克味のホラー道】

映画スクエア

著者名:飯塚 克味

唯一無二、永遠の名作を是非スクリーンで 「ナイト・オブ・ザ・リビングデッド」【飯塚克味のホラー道】
4K restoration © 2017 Image Ten, Inc. All rights reserved.“NIGHT OF THE LIVING DEAD was restored by the Museum of Modern Art and The Film Foundation, with funding provided by the George Lucas Family Foundation and the Celeste Bartos Preservation Fund.

飯塚克味のホラー道 第21回「ナイト・オブ・ザ・リビングデッド 4Kリマスター版」

 今や、映画を飛び越え、ゲームやマンガでも当たり前のように認知されているゾンビ。死者が蘇り、人肉を食うという基本設定を、老若男女、誰もが受け入れている。だが全てのことに始まりがあるように、このゾンビという存在にも始まりがあった。それを生み出したのが、ゾンビの生みの親と言われる、ジョージ・A・ロメロ監督だった。ピッツバーグで制作会社を立ち上げ、CMなどを作っていたロメロ監督は、28歳の時に本作で劇場映画に進出。低予算ながら、それまでの恐怖映画とは一線を画した設定で世界中を仰天させることになる。

 物語は至ってシンプル。父親の墓参りにやってきた兄妹が、突然、謎の男に襲われ、兄は死亡。妹は逃走し、ある一軒家に逃げ込む。そこには黒人男性も逃げ込んできて、どうやら死者が蘇り、人々を襲っては、人肉を食っていることを知る。その家には他にも隠れていた人たちがいたのだが、ゾンビは家を取り囲み、家を襲い始める。悪夢のような一夜を、彼らは越えることができるのか?という物語だ。

 本作が作られた1968年は、カラーでワイド画面も珍しくなかったが、コストが抑えられるモノクロ、スタンダードで撮影。だが作品のムードにピッタリとはまって、最高の効果を生み出している。映画がほぼ全編、ナイトシーンなのもプラスに作用している。また本作に描かれた人種問題を含む社会的背景は、ロメロの作家性を語る上で欠かせない要素となっている。

 実は本作以前にもゾンビは映画に登場している。ベラ・ルゴシ主演の『恐怖城』(1932)やハマーの『吸血ゾンビ』(1966)などがそれだが、いずれもブードゥー教の呪術で死体が復活し、悪人に操られるというもので、今のゾンビの基準とはずいぶん異なる。死者ゆえゆっくり動き、生者を襲うというロメロスタイルのゾンビは、本作の世界的ヒットで認知されるに至ったのだ。

 ところがドライブインシアターなどで大ヒットした本作は、日本では劇場未公開に終わった。最初にゾンビが大々的に日本のスクリーンに登場したのは、本作の続編にあたる『ゾンビ』(1978)だった。『ゾンビ』の原題は”DAWN OF THE DEAD“。つまり「死者の夜明け」という意味で、ナイトの次で夜が明けたということなのだ。製作に、当時『サスペリア』(1977)で大ブレイクしたダリオ・アルジェントが加わったことで、『ゾンビ』は大ヒット。ホラー映画の人気が上がり、80年代、ビデオバブルがやって来て、ようやく『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド ゾンビの誕生』という邦題で本作はビデオ化が実現する。発売したメーカーは、メジャースタジオ作品をメインに扱っていたCICビクター。『マーティン/呪われた吸血少年』『ザ・クレイジーズ/細菌兵器の恐怖』も同時にリリースされ、一大キャンペーンが行われたことは、リアル世代なら忘れていないはずだ。(因みにLDの邦題は『生ける屍の夜』。個人的にはこの邦題が大変気に入っている)

 その後、ジョージ・A・ロメロ監督はゾンビ三部作の最終章となる『死霊のえじき』(1985)を発表。ロメロ監督と数多くの作品を生み出した、特殊メイクアップアーティストのトム・サビーニは、1990年にリメイク版『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド/死霊創世紀』を演出。一方、ゾンビの設定は、走るゾンビや、動物ゾンビにまで広がり、どれほどのゾンビ映画がこの世に存在するのか、もはや確認不能な事態に発展している。

 だが、そんな中でもDVDやブルーレイなどで『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』が登場するたびに、唯一無二である、オリジナルならではの輝きを放ってきた。だが残念なことに劇場公開だけはなぜか実現しなかった。ジョージ・A・ロメロ監督は2017年7月16日に、この世を去っているが、最後の仕事だったかもしれない本作の4K化監修は、今を生きる我々に残された最高のプレゼントだったと言えるのではないか?是非、日本のスクリーンで永遠の名作を楽しんでもらいたい。

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唯一無二、永遠の名作を是非スクリーンで 「ナイト・オブ・ザ・リビングデッド」【飯塚克味のホラー道】

飯塚克味(いいづかかつみ)
番組ディレクター・映画&DVDライター
1985年、大学1年生の時に出会った東京国際ファンタスティック映画祭に感化され、2回目からは記録ビデオスタッフとして映画祭に参加。その後、ドキュメンタリー制作会社勤務などを経て、現在はWOWOWの『最新映画情報 週刊Hollywood Express』(毎週土曜日放送)の演出を担当する。またホームシアター愛好家でもあり、映画ソフトの紹介記事も多数執筆。『週刊SPA!』ではDVDの特典紹介を担当していた。現在は『DVD&動画配信でーた』に毎月執筆中。TBSラジオの『アフター6ジャンクション』にも不定期で出演し、お勧めの映像ソフトの紹介をしている。


【作品情報】
ナイト・オブ・ザ・リビングデッド 4Kリマスター版
2022年6月17日(金)より シネマート新宿ほか全国順次公開
配給:アンプラグド
4K restoration © 2017 Image Ten, Inc. All rights reserved.“NIGHT OF THE LIVING DEAD was restored by the Museum of Modern Art and The Film Foundation, with funding provided by the George Lucas Family Foundation and the Celeste Bartos Preservation Fund.

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