罪を自分のクローンに被せた男の悲劇 ブランドン・クローネンバーグ監督新作 『インフィニティ・プール』

映画スクエア

著者名:飯塚 克味

罪を自分のクローンに被せた男の悲劇 ブランドン・クローネンバーグ監督新作 『インフィニティ・プール』

飯塚克味のホラー道 第77回『インフィニティ・プール』

 ブランドン・クローネンバーグ監督の新作となる第3作が、ついに日本公開となる。北米では昨年1月に公開され初登場9位という、スマッシュヒットとなった。最近、流行りのオーバーツーリズムを取り上げつつも、この監督ならではの強い個性が発揮されたオリジナリティあふれる一本となっている。

 小説を一冊出しただけの作家ジェームズは、その作品で成功を収めることはなく、現在は出版社の娘と結婚し、異国のリゾート地にやってきて、アイデアが降ってくるのを待っていた。そんな彼の前に現れたのが、彼の作品を読んで大ファンだと語る女性ガビとその夫。彼女たちと意気投合したジェームズは、禁止されているホテルの敷地外に出て、海辺でバーベキューを楽しむ。だがその帰り道、ジェームズは車で人を轢いてしまう。翌日、あっけなく逮捕され死刑を宣告されるが、生き残る道として、クローンの身代わりを警察から提案される…。

 主演はアレクサンダー・スカルスガルド。『トゥルー・ブラッド』(2008~2014)や『ビッグ・リトル・ライズ』(2017~)などのドラマ作品への出演が多いが、『ターザンREBORN』(2016)や『ノースマン 導かれし復讐者』(20212)など、マッチョ体型を活かしたアクション映画への出演も増えてきている。本作では製作総指揮も兼任しているが、偉大なる父を持つ監督同様、父親が有名な俳優であることに共鳴しての出演なのではないかと推測する。本作では、体格はしっかりしているのに、本業がうまくいかず、自分に自信を持てない頼りない男を見事に演じている。

 そんなジェームズを地獄へ誘うガビを演じるのは『X エックス』(2022)や『Pearl パール』(2023)でブレイク中のミア・ゴス。今回も強烈なインパクトで、忘れられないキャラを作り出している。

罪を自分のクローンに被せた男の悲劇 ブランドン・クローネンバーグ監督新作 『インフィニティ・プール』

 前作『ポゼッサー』(2020)でも、意識を人に移すことで、次第に人間性を失っていく主人公を見事に描き切っていたブランドン・クローネンバーグ監督だが、本作での演出は、より磨きがかかり、観客を夢中にさせる術を上達させているのは誰が見ても明らかだろう。中でもクローンができていくイメージ映像の積み重ねは本当に素晴らしく、万華鏡のような映像や、視覚効果を的確に使い、観客にトリップ感覚を疑似体験させてくれる。

 自分は果たして本物なのか?死刑にされたのは実はクローンではないのか?という疑念を抱かせる展開も巧みだ。やりたい放題の観光客を罰しつつ、クローンの存在意義という科学的なモラルにも迫っており、鑑賞後は何とも言えぬ感情が湧き上がってくるはず。

 『ポゼッサー』の時は、いわゆるメジャー路線には進まないだろうと思っていたブランドン・クローネンバーグ監督だが、スター俳優を使い、これほどしっかりしたテーマ性のある作品を作れるなら、次はメジャースタジオでの製作も可能なのではないか?もちろんメジャーがいいという訳ではないのだが、『哀れなるものたち』(2023)を手がけたヨルゴス・ランティモス監督のような道も歩めるのではないかと思えてきた。次回作が楽しみだ。

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罪を自分のクローンに被せた男の悲劇 ブランドン・クローネンバーグ監督新作 『インフィニティ・プール』

飯塚克味(いいづかかつみ)
番組ディレクター・映画&DVDライター
1985年、大学1年生の時に出会った東京国際ファンタスティック映画祭に感化され、2回目からは記録ビデオスタッフとして映画祭に参加。その後、ドキュメンタリー制作会社勤務などを経て、WOWOWの『最新映画情報 週刊Hollywood Express』の演出を担当した。またホームシアター愛好家でもあり、映画ソフトの紹介記事も多数執筆。『週刊SPA!』ではDVDの特典紹介を担当していた。現在は『DVD&動画配信でーた』に毎月執筆中。TBSラジオの『アフター6ジャンクション』にも不定期で出演し、お勧めの映像ソフトの紹介をしている。


【作品情報】
インフィニティ・プール
2024年4月5日(金)新宿ピカデリー、池袋HUMAXシネマズ、ヒューマントラストシネマ渋谷他全国順次公開
配給:トランスフォーマー
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