ここ数年、ホラーと言ったらA24かブラムハウス・ピクチャーズの2社がけん引してきたが、そこに風穴を開けそうな面々がようやく現れた。それが今回、紹介する『アビゲイル』を作ったレディオ・サイレンスだ。『V/H/Sシンドローム』(2013)で注目を集めた映像製作集団として、マット・ベティネッリ=オルピン、タイラー・ジレット、チャド・ヴィレラは『レディ・オア・ノット』(2019)、『スクリーム』(2022)『スクリーム6』(2023)をヒットさせ、今回ユニバーサルと組んで、この『アビゲイル』を完成させた。
ポスターに大きな文字で「誘拐した少女は、ヴァンパイアだった…」と、思い切りネタばらしをしているが、それがオチではないことは、彼らが作った作品を観てきたファンなら、よく理解しているはずだ。
5000万ドルの身代金を手に入れるため、富豪の娘で12歳の少女を誘拐した6人の犯罪者。あとは金を手にするまで娘を一晩、屋敷で監視するだけのはずだったが、娘の正体は実はヴァンパイアだったという、誘拐劇とヴァンパイアホラーをミックスした内容になっている。
犯罪グループのメンバーを演じるのは、先述の新生『スクリーム』シリーズで主人公を演じたメリッサ・バレラ。『美女と野獣』(2017)『ザ・ゲスト』(2014)などのダン・スティーヴンス。『ザ・スイッチ』(2020)のキャスリン・ニュートン、『ストレイン』シリーズ(2014~2017)でも吸血鬼と戦ったケヴィン・デュランドなど。ヴァンパイアの少女を演じたのは、配信作品『マチルダ・ザ・ミュージカル』(2022)のアリーシャ・ウィアーだ。中心人物を演じたメリッサ・バレラはイスラエルを非難する発言をしたため『スクリーム』シリーズを降板させられたが、嬉しい形でホラーに復帰してくれた。ダン・スティーヴンスもジェントルとは程遠いキャラを作り出して、ファンを驚かせてくれる。
この映画、ポスターデザインを見る限りはオシャレで、スタイリッシュなイメージを持たれるかもしれない。しかしいざフタを開けてみると、想像を絶する生々しい描写の連続で、ホラーファンを狂喜乱舞させてくれる。とにかく噛みつく場面でも、かぶりつくと言った方が正解と思えるほど、凄まじい。当然、グループのメンバーは次から次へと襲われていくのだが、それぞれが趣向を凝らした形で悲惨な目に遭い、作り手のサービス精神が感じられて思わず嬉しくなってしまう。『ザ・スイッチ』の成功以降、マーベル映画など、メジャーでの仕事が続くキャスリン・ニュートンは「売れてもこんなことやる?」と思うような場面が出てくるので、ぜひ期待してほしい。
あと断っておくと、少女がヴァンパイアになるのは、映画の半分辺りなので、ちょっと待つことになるのだが、前半は犯罪ドラマとしての面白さが詰まっている。これは作り手たちが、クエンティン・タランティーノが製作した『フロム・ダスク・ティル・ドーン』(1996)を意識したとのことで、両作を観比べるのも映画の楽しみ方を拡げてくれるはずだ。またキャラ設定も意外な形で変わってくるので、後半はお楽しみの連続となっている。
見終わった後、「あー、面白かった」と素直に口に出せる作品になっている点も評価したいポイントだ。本作はいわゆる少女受けしそうなオシャレなホラーではなく、血が噴き出し、肉塊が飛び交う爆裂系ホラーなので、ソコは頭に置いて、映画館へ行ってほしい。
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飯塚克味(いいづかかつみ)
番組ディレクター・映画&DVDライター
1985年、大学1年生の時に出会った東京国際ファンタスティック映画祭に感化され、2回目からは記録ビデオスタッフとして映画祭に参加。その後、ドキュメンタリー制作会社勤務などを経て、WOWOWの『最新映画情報 週刊Hollywood Express』の演出を担当した。またホームシアター愛好家でもあり、映画ソフトの紹介記事も多数執筆。『週刊SPA!』ではDVDの特典紹介を担当していた。現在は『DVD&動画配信でーた』に毎月執筆中。TBSラジオの『アフター6ジャンクション』にも不定期で出演し、お勧めの映像ソフトの紹介をしている。
【作品情報】
アビゲイル
2024年9月13日(金)全国劇場公開
配給:東宝東和
© 2024 Universal Studios