まさかの『悪魔のいけにえ』リスペクト! 著作権切れの動物が大暴れのホラー 『メリーおばさんのひつじ』

映画スクエア

著者名:飯塚 克味

まさかの『悪魔のいけにえ』リスペクト! 著作権切れの動物が大暴れのホラー 『メリーおばさんのひつじ』
© 2022 Dark Abyss Productions Ltd

飯塚克味のホラー道 第94回『メリーおばさんのひつじ』

 『プー2 あくまのくまさんとじゃあくななかまたち』(2023)の公開がこの前始まったばかりだと思っていたら、もう次の作品がやって来た。今回、ターゲットにされたのは、誰でもメロディを口ずさむことができる『メリーさんのひつじ』だ。19世紀のアメリカに起源を持つ童謡で、エジソンが初めて蓄音機に録音した歌とも言われている。

 物語は未解決事件や超常現象を取り扱うラジオ番組のパーソナリティ、カルラが番組の人気回復のため、行方不明者が続出するワープウッズの森へ、仲間と共に取材に行くが、そこでメリーおばさんと、羊の頭の殺人鬼に襲われるというものだ。

 監督は『MEG ザ・モンスターズ2』(2023)のアニメーションや『キック・アス』(2010)の視覚効果を手掛けたジェイソン・アーバー。『プー あくまのくまさん』(2023)の監督リース・フレイク=ウォーターフィールドがプロデューサーで参加している点もチェックポイントだ。主演のメイ・ケリーは、この手のジャンル映画に数多く出演していて、ベテランの領域に入っている若手女優。昨年だけで、本作や『プー あくまのくまさん』など10本以上の映画に出演している。

 羊の頭をした殺人鬼という事で、ジェイソンのホッケーマスクのような被り物を想像してしまうが、設定上はA24の『LAMB/ラム』(2021)に出てくるアダちゃんのような生き物だ。

 また本作は、相当な低予算で作られた印象で、冒頭のラジオ局の放送シーンなど、まるでエド・ウッドの映画を思わせるようなチープなセットに驚く観客が多いと思われる。だが予算は無くても、映画としての作りはしっかりしているので、思った以上に時間が早く経過する。自分の場合、30分くらいかと思って時計を確認したら50分まで来ていた。

まさかの『悪魔のいけにえ』リスペクト! 著作権切れの動物が大暴れのホラー 『メリーおばさんのひつじ』
© 2022 Dark Abyss Productions Ltd

 そして何よりこの映画で自分が気に入ったのが、純粋過ぎる『悪魔のいけにえ』(1974)へのリスペクトだ。映画の冒頭、つかみとしてメリーおばさんと羊の殺人鬼が、若いカップルと食卓を共にしているのだが、この雰囲気はもしかして、『悪魔のいけにえ』のクライマックスではないのか?と思っていた。しかし、映画が進むにつれ、それは確証へと変わっていく。車で移動する若者たち、レザーフェイスのように、ちょっと頭が弱そうな羊の殺人鬼。そして何より怒涛のクライマックスは、もう「我々は『悪魔のいけにえ』をやりたいんです!」という作り手たちの、強い思いが画面からビシバシと伝わってくる。事前に『悪魔のいけにえ』を見たか、見てないかによって、本作の評価は大きく変わるだろう。

 著作権切れの動物を主人公にしたおとぎ話の闇落ち版として、あまり期待していない人もいるかもしれないが、しっかりした基礎と、名作へのオマージュが込められた、愛すべき一本となっている。是非スクリーンで確認してもらいたい。

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まさかの『悪魔のいけにえ』リスペクト! 著作権切れの動物が大暴れのホラー 『メリーおばさんのひつじ』

飯塚克味(いいづかかつみ)
番組ディレクター・映画&DVDライター
1985年、大学1年生の時に出会った東京国際ファンタスティック映画祭に感化され、2回目からは記録ビデオスタッフとして映画祭に参加。その後、ドキュメンタリー制作会社勤務などを経て、WOWOWの『最新映画情報 週刊Hollywood Express』の演出を担当した。またホームシアター愛好家でもあり、映画ソフトの紹介記事も多数執筆。『週刊SPA!』ではDVDの特典紹介を担当していた。現在は『DVD&動画配信でーた』に毎月執筆中。TBSラジオの『アフター6ジャンクション』にも不定期で出演し、お勧めの映像ソフトの紹介をしている。


【作品情報】
メリーおばさんのひつじ
2024年9月6日(金)より全国公開
配給:アルバトロス・フィルム
© 2022 Dark Abyss Productions Ltd

作品一覧