何ともインパクトのあるポスターデザインだ。下着と間違えそうな水着を着た太った血まみれの女性が微笑みながらこっちを見つめている。手前にはナイフを持つ人物の手元だけが写っている。どう見ても、この両者が激しいバトルを繰り広げる映画に思えるが、実はかなり異なるテイストの作品になっている。
スペインの田舎町に暮らすティーンエイジャーのサラは、クラスメイトの3人娘から執拗ないじめを受けていた。ある暑い日、地元の人が使うプールを誰もいない時間帯を見計らって訪れるサラ。だがいじめっ子たちは、彼女がプールに入った後、サラの荷物を奪い、逃走してしまう。やむを得ず、裸同然の姿で長い道のりを歩いて帰るサラ。あまりの恥ずかしさに横道へとそれた時、怪しげな車を見つけ、その中に血まみれになったいじめっ子たちの姿を発見する。だが犯人は驚くこともなく、サラの私物を置いて去っていく。サラはいじめっ子たちを見捨てるのか、それとも警察に通報するのか?
本作の元になったのは、2018年に300以上の映画祭に出品され、ゴヤ賞など90以上の賞を受賞した短編映画『CELDITA』。YouTubeで観ることができるので、興味のある方はぜひチェックしてほしい。だがそこで観ることができるのは、上記のあらすじまで。本作では、その後のサラの行動や両親など周辺の人物たちの様子が描き込まれ、怒涛のクライマックスになだれ込んでいく。
監督はTV業界でキャリアを積み、数々の短編で注目を浴びたカルロタ・ペレダ。狭い町の微妙な人間関係や、自分のすべきことで悩むサラの心情など、的確な演出で観る者の関心を引く。一度見たら忘れられないインパクトを放つ主演のラウラ・ガランは主に舞台を中心に活躍し、『テリー・ギリアムのドン・キホーテ』(2018)で長編映画にデビューを果たした、これからの存在だ。
本作で一番恐ろしいのは、観客に自身の持つルッキズムが鏡のように向けられることだ。ルッキズムとは人の価値を外見だけで判断する差別的な考えなのだが、今年、世界中で空前の大ヒットとなった『バービー』(2023)でも、マーゴット・ロビーというアイコンを使って、ルッキズムの問題が提示されていた。本作ではもっと露骨にそれが突きつけられ、我々は嫌でも自分たちがいじめっ子たちのようにサラを差別していないか、笑いものにしていないか、考えさせられるのである。
3人のいじめっ子とターゲットの女の子が戦うことになるウィノナ・ライダー主演の『ヘザース/ベロニカの熱い日々』(1989)や、リンジー・ローハン主演の『ミーン・ガールズ』(2004)のような、ハリウッドが作ってきたいじめられる主演女優の方が誰よりも可愛らしい映画へのアンチテーゼになっている点も興味深いところだ。本作が正にこれからの時代を暗示しているとも言えよう。
クライマックスのサラの決断をどう解釈するかは人それぞれだと思うので、是非、一緒に観た人と語り合ってほしい。
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飯塚克味(いいづかかつみ)
番組ディレクター・映画&DVDライター
1985年、大学1年生の時に出会った東京国際ファンタスティック映画祭に感化され、2回目からは記録ビデオスタッフとして映画祭に参加。その後、ドキュメンタリー制作会社勤務などを経て、現在はWOWOWの『最新映画情報 週刊Hollywood Express』(毎週土曜日放送)の演出を担当する。またホームシアター愛好家でもあり、映画ソフトの紹介記事も多数執筆。『週刊SPA!』ではDVDの特典紹介を担当していた。現在は『DVD&動画配信でーた』に毎月執筆中。TBSラジオの『アフター6ジャンクション』にも不定期で出演し、お勧めの映像ソフトの紹介をしている。
【作品情報】
PIGGY ピギー
2023年9月22日(金)ヒューマントラストシネマ渋谷、池袋シネマ・ロサ、新宿武蔵野館 他 全国ロードショー 配給:シノニム、エクストリーム
©MORENA FILMS-BACKUP STUDIO-FRANCESA