この秋も様々な作品が劇場で公開されているJホラー。いわゆる日本のホラー映画だが、このJホラーの源流は意外と知られていない。ほとんどの方が高橋洋脚本、中田秀夫監督の『女優霊』（1995）と『リング』（1998）だと思っているが、実は違う。『女優霊』『リング』がJホラーを大ブレイクさせたのは間違いない。だが、先の両クリエイターも影響を受けたと認めているのが、実は鶴田法男監督が1991年からオリジナルビデオで作り上げた『ほんとにあった怖い話』だったのだ。
レンタルビデオ全盛だった時代、メーカーで宣伝などを行っていた鶴田監督は、書店にあった原作コミックを目にし、これを映像化したら面白いはずと映像化を決意。本作で監督デビューをすることになり、その才能をいかんなく発揮することになる。衝撃を受けた監督は数知れず。先の二人に加え、本DVDにコメントを寄せた黒沢清、清水崇、北村龍平など、錚々たる監督たちがリスペクトを表明している。そのことから鶴田監督はJホラーの父と呼ばれる存在になり現在に至っているのである。
本作は2004年に一度DVD化されたものの、その後、廃盤。長らく見ることが難しかったが、ついに新装版として久々にDVD化。収録されているのは1991年の『ほんとにあった怖い話』、1992年の『ほんとにあった怖い話 第二夜』、『新ほんとにあった怖い話 幽幻界』で、各3～4話から構成されている。
今回、作品をすべて見直したのだが、どれも創意工夫にあふれ、本気で怖がらせようとしているのが猛烈に伝わってくる。そして傑作と言われる『夏の体育館』と『霊のうごめく家』（共に第二夜に収録）は、やはり今でも底知れぬ恐怖を与えてくれるのだ。『夏の体育館』は肝試しに夜の体育館に忍び込んだ女子高生3人が、紅い服の幽霊に遭遇する話なのだが、ソフトフォーカスで捉えられた夏のじめじめした空気感や、鈴の音が絶妙な効果を生み出していて、クライマックスに紅い服をまとった女性の幽霊が出てくる瞬間は、こっちも緊張が止まらない。そして『霊のうごめく家』は、父親の転勤で借家住まいになった一家が体験する恐怖を描いているのだが、ここに出てくる幽霊の何と不気味なことか。畳や壁のどす黒い染みなど、雰囲気作りも実に丁寧。母親がドアの隙間に立つ霊の存在を確信する場面は、これぞ“恐怖”と言える名シーンに仕上がっている。
また『新ほんとにあった怖い話 幽幻界』はオリジナルビデオ作品ならではの制約のなさを逆手にとって、効果音などで極端な音声レベル変更が行われている。台詞に合わせてボリュームを調整すると、かなりドッキリするはずなので、是非試してもらいたい。
新装版ならではの特典の充実ぶりも本DVDの特徴だ。『邪願霊』（1989）の石井てるよし監督、漫画家の伊藤潤二、『霊のうごめく家』に出演している伴大介、そして高橋洋監督の豪華メンバーが鶴田監督と対談する映像を収録。それぞれ15分程度だが、Jホラーの誕生や、影響を受けた作品、撮影の舞台裏など、どれも話の内容が濃く、あっという間に時間が過ぎた。音声解説ではとにかく鶴田監督がよく話してくれ、企画の成り立ち、低予算をどう乗り越えたか、当時のビデオ界の状況など、こちらも面白くて仕方がない。封入特典のチラシとVHSのジャケットもリアル世代にはたまらない、若い世代には新鮮な感覚を与えてくれるのではないだろうか？解説書も鶴田監督自ら原稿を書いていて、こちらも読み応えたっぷりとなっている。
今回のソフト化がなぜブルーレイでなく、DVDなのかということに疑問をお持ちの方もいるだろう。作品そのものは元々SD画質で作られたビデオ作品であり、ブルーレイにすると余計粗が目立つからと監督自身が音声解説で語っている。自分も同意見だ。
奇しくも、この年末、中国で撮り上げた新作『戦慄のリンク』の公開を控える鶴田法男監督の軌跡を振り返るという意味でも、本DVDのチェックはホラーファンなら必須だろう。ハロウィンのこの時期、是非大勢で観て、震え上がってもらいたい。
関連記事：最新おすすめホラー映画はこれだ！ 【飯塚克味のホラー道】
飯塚克味（いいづかかつみ）
番組ディレクター・映画＆DVDライター
1985年、大学1年生の時に出会った東京国際ファンタスティック映画祭に感化され、2回目からは記録ビデオスタッフとして映画祭に参加。その後、ドキュメンタリー制作会社勤務などを経て、現在はWOWOWの『最新映画情報 週刊Hollywood Express』（毎週土曜日放送）の演出を担当する。またホームシアター愛好家でもあり、映画ソフトの紹介記事も多数執筆。『週刊SPA！』ではDVDの特典紹介を担当していた。現在は『DVD＆動画配信でーた』に毎月執筆中。TBSラジオの『アフター６ジャンクション』にも不定期で出演し、お勧めの映像ソフトの紹介をしている。
【作品情報】
ほんとにあった怖い話【新装版】
2022年10月28日（金）セルDVD発売
発売元：ジャパンホームビデオ、マクザム
販売元：マクザム © 朝日新聞出版、ジャパンホームビデオ
