ルピタ・ニョンゴの熱演が光る 音が出せない恐怖の連続 『クワイエット・プレイス:DAY 1』

映画スクエア

著者名:飯塚 克味

飯塚克味のホラー道 第85回『クワイエット・プレイス:DAY 1』

ルピタ・ニョンゴの熱演が光る 音が出せない恐怖の連続 『クワイエット・プレイス:DAY 1』
©2024 PARAMOUNT PICTURES

 今年、全米でのパラマウントの勝負作が『クワイエット・プレイス:DAY 1』と聞いた時、本当に大丈夫なのか、心配になってしまった。最近、昨年のストライキの影響もあり弱体化を指摘されることが多いハリウッド映画だが、サマーシーズンと言えば各スタジオがその年を代表することになる大作、話題作が毎週のように公開されるのが通例だ。そんな中、シリーズ物はともかく、スピンオフに該当するような、いわゆるエピソード1的な作品が観客の関心を集められるのか?と思ってしまったのである。しかし実際の作品を観てみたら、そんな不安は吹き飛んでしまった。

 ある日、地球上に宇宙から、視覚はないものの、音にだけ過敏に反応するエイリアンが襲来。人類はなす術もなく侵略され、わずかな数が音をたてないように静かに暮らしている、というのが『クワイエット・プレイス』(2018)の世界観だ。低予算の第1作では最初から地方が舞台で、第2作でも基本的なスタンスは変わらなかった。だが本作は大都市ニューヨークの惨状をリアルに描写。これだけVFX技術が進化しても、一体どうやって撮ったのかと思わざるを得ないミラクルショットが連発する。

 だが本当にすごいのは俳優陣だ。主演のルピタ・ニョンゴは 『それでも夜は空ける』から驚異的な演技力を見せていたが、『ブラックパンサー』シリーズやジョーダン・ピール監督の『アス』など、正にジャンルを問わない活躍ぶりを見せている。本作では末期がんの患者でホスピスで暮らしているサミラを演じているのだが、別人かと思うほど痩せこけ、病人らしさを内側からも感じさせる。そんな彼女と行動を共にするのがジョセフ・クイン演じるエリックだ。どうしようもなく頼りなさげなエリックは、サミラの後を金魚のフンのように付いてくるように登場。お互い、一人では立っていられないような存在だが、寄り添うことで最悪の状況を乗り越えようとする。

 そして忘れてはいけないのが、サミラが終始抱いている猫の存在だ。このシリーズと言えば、緊張の連続だが、それゆえ「なぜ?」と突っ込みどころも多く目に付く。特に第1作では、こんな状況で主演のエミリー・ブラントが妊娠、出産することになり、多くの観客が「この状況で子どもを作るか?」と思ったものだ。本作でも猫なんかと一緒にいたら、いつ泣き出すか分からないし、そもそも猫の行動は予測不能だから、変なモノでも踏んで音を出したら一瞬で終わりじゃないかと思うのが自然だ。しかし、そんな危険な状況を察知し、おとなしく行動できるのもまた猫なのだ。詳しくは映画をご覧いただきたいが、猫の頑張りには拍手を送りたくなるはずなので、猫好きは絶対観てもらいたい。

ルピタ・ニョンゴの熱演が光る 音が出せない恐怖の連続 『クワイエット・プレイス:DAY 1』
©2024 PARAMOUNT PICTURES

 本編の上映時間は1時間40分。昨今、3時間は当たり前みたいな風潮がハリウッド大作にはあったが、娯楽映画の適正時間はこれくらいだったと思い出させてくれた。しかも自分の場合、体感時間としては30分くらいなので、ポップコーンを食べる暇もないほどだ。そもそも静かにする場面が多いので、映画を観ながら食べ物を食べたい人は、できるだけ早めに食べておく必要があることを覚えておいてほしい。

 監督のマイケル・サルノスキはニコラス・ケイジ主演の『PIG/ピッグ』(2020)を監督した人物だ。トリュフのありかを探し出す貴重なブタを奪われたケイジが、必死にブタを探しまくるミステリードラマだが、この映画も実に見ごたえのある作品だった。本作のような大作に起用され、才能を発揮したことで、更なる大きな舞台で活躍していくだろう。

 残念なのが、パンフレットが売っていなかったこと。ニューヨークのどの場所を移動していったか、VFXシーンをどのように作っていったのか、映画が面白かっただけに知りたいことがいっぱいあったのだ。

 エイリアンの襲撃シーンをはじめ、上空を通過するジェット機やヘリの飛行音、そして雷や嵐など、前作同様、凄まじい音響の連続なので、是非とも音のいい映画館でご覧いただきたい。家のテレビでは不可能な体験をさせてくれるという意味では、本作は間違いなく映画なのである。

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ルピタ・ニョンゴの熱演が光る 音が出せない恐怖の連続 『クワイエット・プレイス:DAY 1』

飯塚克味(いいづかかつみ)
番組ディレクター・映画&DVDライター
1985年、大学1年生の時に出会った東京国際ファンタスティック映画祭に感化され、2回目からは記録ビデオスタッフとして映画祭に参加。その後、ドキュメンタリー制作会社勤務などを経て、WOWOWの『最新映画情報 週刊Hollywood Express』の演出を担当した。またホームシアター愛好家でもあり、映画ソフトの紹介記事も多数執筆。『週刊SPA!』ではDVDの特典紹介を担当していた。現在は『DVD&動画配信でーた』に毎月執筆中。TBSラジオの『アフター6ジャンクション』にも不定期で出演し、お勧めの映像ソフトの紹介をしている。


【作品情報】
『クワイエット・プレイス:DAY 1』
2024年6月28日より公開中
©2024 PARAMOUNT PICTURES

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