大風呂敷を広げるだけ広げるシャマラン演出 今回も世界の終末という大きな題材 『ノック 終末の訪問者』

映画スクエア

著者名:飯塚 克味

大風呂敷を広げるだけ広げるシャマラン演出 今回も世界の終末という大きな題材 『ノック 終末の訪問者』

飯塚克味のホラー道 第40回 『ノック 終末の訪問者』

 この連載が始まった頃に紹介した『オールド』(2021)に続き、またM・ナイト・シャマラン監督の新作がやってきた。大風呂敷を広げるだけ広げるシャマラン演出には賛否両論あるが、今回も世界の終末という大きな題材を扱っているので、シャマランファンなら見逃すわけにはいかないだろう。

 これまでにもミヒャエル・ハネケ監督の『ファニー・ゲーム』(1997)や、リブ・タイラーが主演した『ストレンジャーズ/戦慄の訪問者』(2008)など、休日を過ごす人々を見ず知らずの連中が地獄に突き落としにやってくる映画はたくさんあった。そのどれもが後味の悪い、不快指数の極めて高い映画でもあった。だが、本作は不思議とそれらの作品と違い、不思議な余韻を残す作品になっているのだ。

 内容は詳しく語れないが、人里離れた山小屋で休日を過ごしていたゲイのカップルと養子の少女の3人家族の前に、突然4人の訪問者がやってくる。彼らは3人に「自分たちは世界を終末から防ぎに来た。君たちの選択にかかっている」そして「家族3人の内、犠牲になる1人を選べ」と迫るのだ。

 突然そんなこと言われても、と誰もが思うだろう。3人も変な新興宗教か、頭が変になった人たちかと信じられない、つまり我々と同じ反応をする。だが、次々と証拠を突き付けられ、観ているこちらも信じる以外ないよう追い詰められていく。

 そんな本作に大きな説得力をもたらしてくれたのがキャスティングだ。訪問者の一人、レナードを名乗るデイヴ・バウティスタの圧倒的な存在感が、映画にリアリティをもたらしている。言うまでもなく『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』シリーズのドラックス役で知られるようになったバウティスタは、どの作品でもその巨体を生かし、役を印象的なものにしてきた。だが今回は、ちょっと見方さえ変えればごく普通の人なのだ。登場シーンではのっし、のっしと大きな足音が聞こえてくるような錯覚に囚われるが、話し始めるととても優しい。言っていることはおかしいが、理知的でまともなようにも見える。これこそが今回シャマランの狙いで、観客に大きな混乱をもたらすのである。

 また別の訪問者として『ハリー・ポッター』シリーズでロンを演じてきたルパート・グリントも加わっている。こちらも明るい陽キャラだったロンと異なり、暗い過去を秘めたやや凶暴な人物像になっていて、『ハリー・ポッター』と共に育った世代なら、あまりの違いに困惑するはずだ。

 そんなキャストたちの頑張りに加え、低予算でも最大の効果を発揮するシャマラン演出は今回も冴えわたっている。世界中の大惨事を伝えるのはテレビのニュース映像のみなのだが、これが実に良くできている。その場のスマホで撮影されたかのような質感で、手ブレもしまくり。だが今の時代、それこそがリアリティなのだ。

 あと忘れてはならないのが、出たがりのシャマラン監督のカメオ出演シーン。『オールド』では、もうカメオじゃなく、立派な役だろうという感じだったが、今回は人里離れた小屋が舞台なので、いつもとはちょっと勝手が違う。見れば一目瞭然なので、お楽しみにしていて欲しい。

 ラストの解釈は、観客それぞれに委ねられ、面白いと思う人もいれば、ヘンテコで理解不可能と思う人もいるだろう。筆者的には2000年を迎える時、世界的に終末論が高まり、パソコンが使えなくなるとか、核ミサイルが発射されるなど、いろんな噂や憶測が飛び交ったあの時代を思い出してしまった。是非、観た人同士で、作品の解釈をぶつけて、話し合ってみるといいのではないか。

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大風呂敷を広げるだけ広げるシャマラン演出 今回も世界の終末という大きな題材 『ノック 終末の訪問者』

飯塚克味(いいづかかつみ)
番組ディレクター・映画&DVDライター
1985年、大学1年生の時に出会った東京国際ファンタスティック映画祭に感化され、2回目からは記録ビデオスタッフとして映画祭に参加。その後、ドキュメンタリー制作会社勤務などを経て、現在はWOWOWの『最新映画情報 週刊Hollywood Express』(毎週土曜日放送)の演出を担当する。またホームシアター愛好家でもあり、映画ソフトの紹介記事も多数執筆。『週刊SPA!』ではDVDの特典紹介を担当していた。現在は『DVD&動画配信でーた』に毎月執筆中。TBSラジオの『アフター6ジャンクション』にも不定期で出演し、お勧めの映像ソフトの紹介をしている。


【作品情報】
ノック 終末の訪問者
2023年4月7日(金)より全国ロードショー
配給:東宝東和
© 2022 UNIVERSAL STUDIOS. All Rights Reserved.

作品一覧