魅力はミア・ゴスに尽きる 共同脚本や製作総指揮も兼任 ホラーへの熱い思いを感じる 『Pearl パール』

映画スクエア

著者名:飯塚 克味

魅力はミア・ゴスに尽きる 共同脚本や製作総指揮も兼任 ホラーへの熱い思いを感じる 『Pearl パール』

飯塚克味のホラー道 第49回 『Pearl パール』

 昨年、公開されたA24製作の『X エックス』(2022)は70~80年代ホラーへのオマージュで満ちていたにも拘わらず、若い世代に圧倒的な支持を受けた。見方によってはオーソドックスで典型的なホラー作品だったが、それが却って新鮮だったのだろう。タイ・ウエストの演出は緩急を自在に操り、特殊メイクも多用。ミア・ゴスやジェナ・オルテガなど、新世代のスターの配役も上手く、特にミア・ゴスの一人二役は、映画が終わっても気付かない人が多く、明るくなって友達から聞いて、驚いている観客もいたと聞く。そんな『X エックス』の続編であり、前日譚となるのがこの『Pearl パール』だ。老婆の殺人鬼パール、彼女がどうやって人殺しをできてしまう人間になっていったかを、驚きのビジュアルで描いている。

 舞台となるのは1918年のテキサス。パールは農場で両親と暮らしていた。夫は第一次世界大戦に従軍し、長いこと不在。母親はドイツ系アメリカ人ということもあり、戦争の行方には神経をとがらせている。そしてパールには農場の仕事に加え、病気で動けなくなった父親の世話をさせ、パール自身は自分の人生が行き詰っているように感じていた。そんなパールの趣味は一人で妄想しつつ踊るダンス。いつか表舞台に立ち、大勢の観客の前で踊ったり、映画に撮影されることを夢見ていた。そして、ある日、町の映画館で上映後、裏通りで余韻に浸っていた時、パールに映写技師の男が語りかけ、抑圧されてきたパールの本能がむき出しになっていく。

 本作の魅力は何と言ってもミア・ゴスそのものに尽きる。『X エックス』ではポルノ撮影隊の一人マキシーンを演じていたが、本作では堂々たる主役である。母親に虐げられ、次第に感情が爆発していく若い女性を、完璧に演じ切っている。本作では監督との共同脚本や製作総指揮も兼任。クライマックスでは驚くほど長い独白シーンが用意されているが、ここの演技が本当にすごいので、是非、注意して観て欲しい。あとパールの母親ルースを演じたタンディ・ライトも素晴らしい。高圧的な態度で娘を支配していく役と言えば『キャリー』(1976)のパイパー・ローリーが強烈だったが、タンディ・ライトの演技もそれに並ぶものだ。実は彼女、前作の『X エックス』ではインティマシー・コーディネーターとして撮影に参加していた。今や映画やドラマに欠かせない、性的なシーンで俳優たちが不快に感じないよう撮影できているかを指導する仕事だが、その仕事ぶりを見た監督が起用に踏み切ったのだ。もちろん『ジャックと天空の巨人』(2013)などで女優としてのキャリアも十分に積んで来ている。

 監督はもちろんタイ・ウエスト。『X エックス』では荒々しいフィルムタッチの画作りだったが、本作では一転、『オズの魔法使』(1939)を思わせるテクニカラーのような鮮やかな色彩が画面全体を覆っている。特にオーディションのくだりでパールが着る赤いドレスは目を引く。画面サイズもスコープサイズを採用し、パールが自転車をこいで、町と自宅を行き来する距離感を醸し出していて、印象的だ。腐っていくブタの丸焼きはロマン・ポランスキー監督の『反撥』(1965)を思い起こさせるが、今回もいろんな映画へのオマージュが隠されているので、楽しみながら発見していってもらいたい。

 ミア・ゴスは、今年のアカデミー賞授賞式開催前に、アカデミー賞からホラー映画が除外されることについて質問を受けた際、「変化が必要です。(ホラー映画のノミネートは)有益だと思いますよ」と、ホラーへの熱い思いを語っている。あくまで推測だが、本作への思いがそれほど強いのだろうと感じずにはいられなかった。次はいよいよ三部作最終章の『MaXXXine(原題)』。これを最高の状態で観るためにも、本作は劇場でチェックしておきたい。

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魅力はミア・ゴスに尽きる 共同脚本や製作総指揮も兼任 ホラーへの熱い思いを感じる 『Pearl パール』

飯塚克味(いいづかかつみ)
番組ディレクター・映画&DVDライター
1985年、大学1年生の時に出会った東京国際ファンタスティック映画祭に感化され、2回目からは記録ビデオスタッフとして映画祭に参加。その後、ドキュメンタリー制作会社勤務などを経て、現在はWOWOWの『最新映画情報 週刊Hollywood Express』(毎週土曜日放送)の演出を担当する。またホームシアター愛好家でもあり、映画ソフトの紹介記事も多数執筆。『週刊SPA!』ではDVDの特典紹介を担当していた。現在は『DVD&動画配信でーた』に毎月執筆中。TBSラジオの『アフター6ジャンクション』にも不定期で出演し、お勧めの映像ソフトの紹介をしている。


【作品情報】
Pearl パール
2023年7月7日(金)TOHOシネマズ 日比谷ほか全国ロードショー
配給:ハピネットファントム・スタジオ
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