10月15日より劇場公開される、今泉力哉監督が窪美澄の短編集を映画化した映画「かそけきサンカヨウ」から、今泉力哉監督のオフィシャルインタビューが公開された。
今泉監督は、本作の原作である窪美澄の短編集「水やりはいつも深夜だけど」の魅力を、「人によっては囚われてしまうような“家族”を、みんな絶対的にいいものとして言葉にすることについて前々から疑問を持っていて。でもこの短編集は“歪みのある家族”について描いていた。その点に惹かれました」と語り、短編集の中でも、幼い頃に母親が家を出て以来、父とふたり暮らしをしてきた少女・陽の葛藤と成長を描いた一篇「かそけきサンカヨウ」に引きつけられたという。
「出て行った生みの母との関係も、普通ならもっと憎しみの率を高くして書きそうなところを、陽は画家である母に対してある種の憧れを持っていたりする。新しくできた妹に対しても、もっと憎しみや嫉妬があってもおかしくないのに、そうは書いていない。“普通はここに葛藤を作る”というところ以外にさまざまな溜め込みがあり、しかもその描き方が丁寧。作り物ではない本当の悩みって感じがしたんです」と、原作の感想を語っている。
映画には父・直と陽の10分弱の長回しシーンがある。本番前に説明のために父親のセリフを足すことになり、直のセリフを増やしたバージョンでテストした際、陽役の志田が足された父のセリフを飛ばして自分のセリフを言ってしまったという。今泉監督は「あれは志田さんのミスではなく、そういう役者の生理だったんだと思います」と語り、撮影ではあらためて直役の井浦と志田で話し合い、直のセリフは足さずに本番を撮影することになった。
「こういうことが現場で起こると、作り物ですが、どんどん本物に近付くと思えるんです。もちろんフィクションはある種の嘘をつくことで面白くなることもあるとわかっています。でも、やっぱり好みなんでしょうね。自分は嘘の許容範囲がすごく狭い。物語のためにキャラクターが存在したり、動いたりする、というようなことは自分が映画を作る時はできるだけなくしようと思っているんです」と印象深いシーンの撮影裏を明かした。
そんな本作について今泉監督は、「言葉にするなら、”ある家族の再生の物語”とかなのかもしれませんが、言葉では説明できない細微な感情をめいっぱい詰めこんで映画にしました」と、得も言われぬ感覚を味わえる作品となっていることを語っている。
【作品情報】
かそけきサンカヨウ
2021年10月15日より全国公開
配給:イオンエンターテイメント
©2020 映画「かそけきサンカヨウ」製作委員会