【レビュー】「空に住む」フワフワとした人生を歩みながらも自らの決意で行動する、すべての直実たちを肯定する視線

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【レビュー】「空に住む」フワフワとした人生を歩みながらも自らの決意で行動する、すべての直実たちを肯定する視線

 

 両親を突然の事故で失っても泣けなかった主人公の小早川直実は、おじ夫婦の好意で誰もがうらやむようなタワーマンションに住み始める。直実が勤めるのは「いい本しか出さない」ことを信条としている小さな出版社で、社員たちは床に座って仕事をしている。直実は空に住み、地で仕事をしている。

 ひょんなことから関係を持つことになったスター俳優の時戸森則との関係はまさに雲の上の出来事のようで、一方の仕事の面では売れる本の企画を考えなければならない現実がある。「雲のよう」と亡き父が言っていたという直実の人生は、どこかフワフワとしている。

 高いところと低いところを、夢と現実を、急降下と急上昇を繰り返すかのような直実の生活は、かわいがっていた黒猫のハルが亡くなることで1度崩壊する。そして、再び立ち上がるために行動を開始する。ハルのことも時戸のこともきちんと整理しなければ前に進めないどころか、生きていくことすら難しくなりそうな直実は、自らの意思で新たな一歩を踏み出す。

 

【レビュー】「空に住む」フワフワとした人生を歩みながらも自らの決意で行動する、すべての直実たちを肯定する視線

 

 直実の周りには抱えるものを持つ人々が多くいる。担当作家の子を宿しながら、そのことを周囲に隠して別の男性と結婚をする愛子。夫とは仲が良いものの空虚さを抱えている明日子。その他の者たちにも、多かれ少なかれ何かを抱えているように見える。

 触れなければならないのは、キャストの素晴らしさだ。私生活ではスター俳優に流されながらも、仕事では別人のような凛々しさを見せる直実を演じた多部未華子。妊娠の秘密を守るために異常なまでの意地を見せる愛子を演じた岸井ゆきの。とにかくキラキラしている時戸森則を演じた岩田剛典。誰もがそれぞれの人物として息づいている。

 誰しもが、他人のことも自分のことも、わかるようでわからない。そして誰しも何かを抱えて生きている。青山真治監督は完成披露イベントで、作品のテーマを「人生は冒険だ!」と語っていた。わかるようでわからないような人生を歩みながら、自らの決意と行動で一歩を踏み出す直実の姿には、人生を他人任せにせずに行動することの大切さと、そんな直実を肯定する視線が感じられる。

(文:冬崎隆司)

 

2020年10月23日(金)より全国ロードショー
©2020 HIGH BROW CINEMA

 

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