日本にハロウィンが定着したのはいつの頃だろう？『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』（93年）が公開された90年代あたりからだったと思うのだが、ジョン・カーペンター監督の『ハロウィン』（78年）が日本で公開されたのは79年夏。まだまだハロウィンの何たるかも知られていない時代だったが、この映画を観た人には、そのタイトルと共に恐怖の一夜として脳裏に焼き付いていた。無表情な白いマスクを付けたブギーマンがハドンフィールドという小さな町を恐怖のどん底に陥れる。その魔の手はベビーシッターをしている女子高生ローリー・ストロードにも迫っていた。低予算を感じさせないスタイリッシュな演出、シンセサイザーを使ったシンプルだが忘れられない音楽、どこを取ってもジョン・カーペンター監督のセンスがにじみ出る新時代のホラーだった。
世界中で大ヒットした本作はその後、当然のようにシリーズ化。シリーズ第2作の『ブギーマン』は『ハロウィン６／最後の戦い』までつながる一方、1998年には『ブギーマン』の新たな続編として『ハロウィンH20』『ハロウィン レザレクション』が作られた。そして2007年にはロブ・ゾンビ監督がリメイク作を発表、続編も作られた。このように枝葉のように行ったり来たりを繰り返して『ハロウィン』シリーズは語り継がれてきた。
そして現代ホラー映画の雄であるジェイソン・ブラムが2018年に『ハロウィン』を発表。タイトルがオリジナル作と同じなので、リメイクやリブートと思われそうだが、78年のオリジナル第1作の続編だった。筆者は試写が始まったら即、駆けつけたが、冒頭、精神病院に収容されている禿げた老齢らしきマイケル・マイヤーズの後ろ姿が映った瞬間から、ちょっと困惑した。一体いつ捕まったんだ？それにしても、マイケルも年を取るのか？そりゃあジェイミー・リー・カーティス演じるローリーも女子高生だったけど、孫のいるお婆ちゃんになってるはずだようなぁと思ったものである。基本の流れはオリジナルを踏襲し、ハドンフィールドで次々と殺戮を繰り返すマイケルだが、どうにも以前の繰り返しのようで新味が乏しい。だが、これは今回、公開される『ハロウィンKILLS』のためには必要な準備段階だったのだ。また何作も作られ続けたシリーズ作を上書きするための一本だったと言ってもよいだろう。
そのくらい『ハロウィンKILLS』は素晴らしい出来になっている。同じデヴィッド・ゴードン・グリーン監督とは思えない力量が隅々に感じられるのだ。まずオリジナル作の生き残りメンバーを総出演させている点に驚く。子守をされていた子どもたちや保安官、犠牲者の遺族などオリジナルを観ていたら、そう来たか！と誰もが思うはずだ。彼らの心に残った傷跡が憎悪となって、町中にうごめいている設定も見事。マイケルに復讐をしようと、暴徒と化した人々が病院を襲撃する場面も圧巻だ。そして何よりローリーがマイケルの存在そのものに言及する場面では鳥肌が立ち、ホラー映画がここまで社会の闇をえぐり出すことができるのかと震撼させられるはずだ。なぜマイケルはここに出てくるのか、なぜ何度殺しても復活してくるのか？それを知った時、観客は自分が暮らす街にもマイケル・マイヤーズがいるのではという恐怖に縛られるのである。
オリジナル（78年版）と前作（2018年版）を観ていないと、消化不良になりかねないというシリーズ物の弱点は抱えているが、それを乗り越える価値は十分あるホラーの傑作が誕生した。2022年にはシリーズ最終章となる『HALLOWEEN ENDS』の公開も予定されているので、本作を見逃す手はない。ホラーが好きなら、絶対劇場で観るべき一本だ！
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飯塚克味（いいづかかつみ）
番組ディレクター・映画＆DVDライター
1985年、大学1年生の時に出会った東京国際ファンタスティック映画祭に感化され、2回目からは記録ビデオスタッフとして映画祭に参加。その後、ドキュメンタリー制作会社勤務などを経て、現在はWOWOWの『最新映画情報 週刊Hollywood Express』（毎週土曜日放送）の演出を担当する。またホームシアター愛好家でもあり、映画ソフトの紹介記事も多数執筆。『週刊SPA！』ではDVDの特典紹介を担当していた。現在は『DVD＆動画配信でーた』に毎月執筆中。TBSラジオの『アフター６ジャンクション』にも不定期で出演し、お勧めの映像ソフトの紹介をしている。
【作品情報】
ハロウィン KILLS
2021年10月29日（金） TOHOシネマズ日比谷、渋谷シネクイントほか全国公開
配給：パルコ ユニバーサル映画
（C）UNIVERSAL STUDIOS
