2024年5月24日より劇場公開される、「レ・ミゼラブル」のラジ・リ監督作「バティモン5 望まれざる者」から、バティモン5の若者たちが理不尽な抑圧に立ち向かうために決起するシーンの、本編映像が公開された。
本編映像の前には、本作の公開にあたって、ラジ・リ監督が日本に寄せたメッセージ映像も収められている。ラジ・リ監督は、自身の育った公営団地を入念に観察。登場人物やエピソード、シチュエーションなどは、実際に出会った人々が元になっていることを明かし、「日本でもたくさんの方に観ていただけるとうれしいです」とコメントを寄せている。
本編映像では、自分の言いなりにならない市民に業を煮やし、まるで嫌がらせのように「未成年は、20時以降外出禁止」という条例を突如発令した横暴な市長に対し、自分たちの権利を守るために若者たちが決起。「次の市長選に出馬するための手続きをした」「立候補者はアビー・ケイタ」「有権者に訴える権利がある」と、宣戦布告をする様子が収められている。
「バティモン5 望まれざる者」は、都市再開発を目前に控えた居住棟エリアの一画=通称「バティモン5」を舞台に、治安の悪いエリア一掃をもくろむ行政と反発する住人たちによる、ある事件をきっかけにした衝突を描いた作品。監督は、「レ・ミゼラブル」のラジ・リ。「レ・ミゼラブル」の製作スタッフが再集結し、再びバンリュー(パリ郊外)が抱える問題を新しい視点を交えて描き出している。
一足先に本作を鑑賞した著名人によるコメントも公開された。コメントは以下の通り。
【コメント】
■あたそ(ライター)
冒頭のビル爆破から、嫌な予感はしていた。権利を持つ者/持てない者、フランスにおける強者/弱者。見える世界はまったく異なり、映像から伝わる大きな怒りや理不尽さ、無理解、憎しみに胸を痛めつつ見ていた。日本だって似た問題を抱えている。これは、私たちから遠く離れた社会で起きた話ではなく、すぐ隣で起こりうることなのだと思う。
■石井光太(ノンフィクション作家)
移民は「暴力を振るう恐ろしい外国人」だと? それは絶対に違う。国、政治家、国民が、弱い立場の移民を暴力へ駆り立てていくプロセスを、この映画をもって知れ!
■井上咲楽(タレント)
私が知っているパリではなかった。
行政から見た「不都合な現実」に生き、排除を望まれる者たちの怒りや悲しみがスクリーンを越えて訴えかけてきた。身の回りの政治にとっての「不都合な現実」はどれくらいあるのだろうと想像せざるを得なかった。
■内田樹(神戸女学院大学名誉教授)
この映画の登場人物たちの中に100%正しい者はいないし、100%の悪人もいない。みんな、それぞれに守るべきものがあり、そのためにそれぞれの仕方で限度を超えた行動をとる。どこまでなら人を傷つけることが許されるのか、どこまでなら感情をむき出しにすることが許されるのか。『人間が人間らしくあることのできる限度』はどこまでか。それについて深く省察することを映画は観客に求める。
■金井真紀(文筆家・イラストレーター)
落書き、低所得、移民、犯罪……「バンリュー」と聞いて、外にいるわたしたちはそういうことばを安易に連想する。だからカメラは中に入っていく。団地の中へ、暮らしの中へ、「反抗的」と烙印を押される人の心の中へ。外と中のボーダーを越えたい人に観てほしい。
■川和田恵真(映画「マイスモールランド」監督)
今のフランスにある複雑なレイヤーが見事に描かれ、暮らす場所、人種、宗教、それぞれが立つ場所によってここまで見えるものが違うのだということがありありと伝わった。
誰かの都合や怒り、復讐のために他者の家や安心を奪うことはあってはならない。アビーが市長になるような、そんな未来があって欲しいと切に願う。
■佐々木俊尚(作家・ジャーナリスト)
「お洒落で小綺麗なパリ」ではない、いま最も熱く昏いフランスの「団地映画」。
汚れた 公設団地で暮らす移民たちの絶望があますところなく描かれ、
どこにも出口のない迷路に、観ている側も殴られるように思いきり連れ込まれる作品だった。
■SYO(物書き)
作り手が我々と同じ時代を生き、傷ついている安心感。
物語も感情も技法も今・この瞬間の感覚で出来ている。
だからわかる。突き刺さる。魂が揺さぶられてしまう。
現実を描く風で現在を描けていない映画とは訳が違う。
この団地に吹き溜まる痛みは、世界とつながっている。
■スプツニ子(アーティスト/ 東京藝術大学デザイン科准教授)
衝突する世界で見つける、人間性の深淵。この映画が問いかけるのは、私たちの社会における“排除”とは何か。
■武田砂鉄(ライター)
権力者が「必要のない人」を作り出す。
理由を奪う。生活を奪う。尊厳を奪う。
どう抗えばいいのか、突きつけてくる。
■ダースレイダー(ラッパー)
フランス革命によって誕生した民主主義精神は、その後に成立する国民国家体制と合わさることで大きな矛盾を抱えることになる。どこまでが、誰が主権を有するのか? その矛盾が当のフランスの移民たちの団地であるバティモン5で一気に噴出する。僕らはこの問題を乗り越えることが出来るのか?
■寺尾紗穂(音楽家/文筆家)
誤解が偏見を呼び
偏見が憎悪を呼ぶ
絡まった移民問題は
感情的な対立を伴う
この映画に希望はない
ただ作品が示す俯瞰的視点が
人々に共有されたとき
そこに希望が生まれるだろう
■名越啓介(写真家)
移民として厳しい環境で育った監督の本作品は、様々な角度からの視点があった。
小さい頃から主人公と同じような現場を目撃し、考え、悩んで、笑って、同じような日常を過ごしてきたからこそ生まれた作品だと思う。 それだけでなく一歩引いた外からの目線も表現されていて監督の冷静な人間性も垣間見れた。世界中の「よくある」移民団地の問題の中から、「よくある」で片付けられない「滲み出た本質の声」が聞こえてくる素晴らしい作品だった。
■プチ鹿島(時事芸人)
ニュースで現状を知っているつもりだった?と突きつけてくるような作品。「理不尽」という言葉が頭を巡るが、「諦めるのはもうやめよう」などハッとするセリフもあちこちにある。パリ五輪の今年にぜひ観て欲しい。
■増田ユリヤ(ジャーナリスト)
私自身、何度も取材で足を運んだバンリュー。生々しい現実が見事に描かれていて胸が詰まる思いがした。それでも差別や排除に正面から立ち向かうアビーのような女性や移民の支援に情熱を注ぐ人々が確かに存在する。それがフランスだ。フランス人とて3代遡ればルーツは移民。誰もが平穏に暮らせる日々を願ってやまない。
■美波(俳優・アーティスト)
「あなたの知らないパリがある。」
フランスで日々深刻化している移民問題。人々が安心して暮らせるユートピアは、この地球上にあるのだろうか。決して他人事では済ませて欲しくない。私たちの国でも起こっている様々な人権問題に目を背けないようにしたい。
■森達也(映画監督・作家)
フランスは移民の国だ。だからハレーションは起きる。政治も(日本と同様に)問題だらけだ。
でもというかだからこそ、アビーの「政治家が変わらないなら、私たちが声をあげなきゃ」の言葉には強く共感できる。つらい映画だ。でも観てよかった。
■森千香子(同志社大学教授)
五輪で沸くパリの周縁で進行する、郊外団地の再開発。立ち退きの危機に瀕した移民が行政に決死の戦いを挑む。監督の個人的経験に基づいた衝撃作。
【作品情報】
バティモン5 望まれざる者
2024年5月24日(金) 新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ有楽町他全国公開
配給:STAR CHANNEL MOVIES
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