前作が好きな人なら絶対楽しんでもらえるエピソード0 『エスター ファースト・キル』

映画スクエア

著者名:飯塚 克味

前作が好きな人なら絶対楽しんでもらえるエピソード0 『エスター ファースト・キル』

飯塚克味のホラー道 第38回 『エスター ファースト・キル』

 2009年に公開された『エスター』は、かなり衝撃的な作品だった。ある夫婦が養子として引き取った9歳の少女エスターが、実は××で殺人鬼だったという、観客の予想のかなり斜め上を行く内容だったからである。子どもが殺人鬼という設定は名匠マーヴィン・ルロイ監督の『悪い種子(たね)』(1956)や、マコーレー・カルキンが主役を演じた『危険な遊び』(1993)など、それまでにも結構作られてはいた。だが“××”というのは、ちょっと意外過ぎた。“××”としたのは、例え旧作であっても、未見の人には知らずに見て欲しいという筆者の願いからだ。なので未見の方は配信でもソフトでもいいので、まずは『エスター』をチェックしてほしい。

 そして、あれから早14年。なんと前日譚となる作品が作られた。驚きなのが、前作でエスターを演じたイザベル・ファーマンが、再びエスターを演じるということだ。『エスター』の後、『ハンガー・ゲーム』(2012)や『エスケープ・ルーム2:決勝戦』(2021)などで着実にキャリアを積んできたファーマンも、本作の撮影時には25歳。さすがにそのままでは無理があるので、様々な工夫を凝らして、映画の中の幼いエスターをスタッフと共に作り上げている。出来は是非、映画館でチェックしてもらいたいところだ。

 さて肝心の物語だが、2007年のエストニアから話は始まる。雪深い、人里離れた地に立つ精神科療養所に収容されていた、エスターになる前のリーナが、施設を脱出するのがオープニングだ。狡猾な彼女は人をだまし、その凶暴性を発揮すると、あっという間に脱出に成功する。ここの展開は『マリグナント 狂暴な悪夢』(2021)を思わせるスピーディなアクションと派手なスプラッター描写の融合で、ホラーファンなら拍手喝采だろう。その後、インターネットで自身とよく似た失踪者エスターを見つけ、彼女に成りすましてアメリカにやってくる。果たして彼女を受け入れた家族の運命は、というのが大まかな流れだ。

 ホラー映画の前日譚なので、エスター(というかリーナ)が生き残るのは確実。これは『遊星からの物体X ファーストコンタクト』(2011)や『テキサス・チェーンソー ビギニング』(2006)でもそうだったのだが、本作には中盤に大きなサプライズが用意されている。そのカギを握るのが『ボーン』シリーズなどでおなじみのジュリア・スタイルズ演じる、エスターの母親だ。エスターに成りすましたリーナに、どことなく不信感を抱きつつも、行方不明になっていたわが子を歓迎する彼女に、どのような運命が待ち受けているのか。非常にうまい脚本で、唸らされたとだけ言っておこう。

 この手の映画は、オリジナルのスタッフがどれだけ参入するかで成否が決まるものだが、原案のアレックス・メイスと脚本のデヴィッド・レスリー・ジョンソン=マクゴールドリックが加わったことで不安は一掃された。違和感がない上に、オリジナルで衝撃的だった絵の具の使い方など、小道具へのこだわりでもオリジナルファンを納得させてくれる。監督は『ザ・ボーイ ~人形少年の館~』(2016)など、ジャンル系一直線のウィリアム・ブレント・ベルを起用。無駄のない手堅い演出で、99分というホラー映画に最適な上映時間でジェットコースター体験を味わわせてくれる。

 公式サイトではメイキングなどの動画も掲載されているが、未見の方はまずはオリジナルを見て、本作を楽しんだ後に舞台裏を知るのがいいだろう。前作が好きな人なら絶対楽しんでもらえるエピソード0として太鼓判を押したい。


【作品情報】
エスター ファースト・キル
配給:ハピネットファントム・スタジオ
2023年3月31日(金)、TOHOシネマズ 日比谷ほか全国ロードショー
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前作が好きな人なら絶対楽しんでもらえるエピソード0 『エスター ファースト・キル』

飯塚克味(いいづかかつみ)
番組ディレクター・映画&DVDライター
1985年、大学1年生の時に出会った東京国際ファンタスティック映画祭に感化され、2回目からは記録ビデオスタッフとして映画祭に参加。その後、ドキュメンタリー制作会社勤務などを経て、現在はWOWOWの『最新映画情報 週刊Hollywood Express』(毎週土曜日放送)の演出を担当する。またホームシアター愛好家でもあり、映画ソフトの紹介記事も多数執筆。『週刊SPA!』ではDVDの特典紹介を担当していた。現在は『DVD&動画配信でーた』に毎月執筆中。TBSラジオの『アフター6ジャンクション』にも不定期で出演し、お勧めの映像ソフトの紹介をしている。

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