香港の女性が東京の呪いの家に宿泊する民泊ホラー 絶対に泊りたくない家で恐怖体験 『怨泊 ONPAKU』

映画スクエア

著者名:飯塚 克味

香港の女性が東京の呪いの家に宿泊する民泊ホラー 絶対に泊りたくない家で恐怖体験 『怨泊 ONPAKU』
©2022 852 Films Limited. All Rights Reserved.

飯塚克味のホラー道 第88回『怨泊 ONPAKU』

 気が付けば、右を向いても左を向いても外国人ばかりになってしまった大都市東京。宿泊施設は不足する一方で、普通の個人宅を宿泊施設として貸し出す民泊が流行ってしまうほどだ。そんな民泊を舞台にしたホラー映画が、香港主導で作られた。映画の冒頭、おもちゃの飛行機にリアルな飛行音を被せ、一瞬「こういう映画?」と思わせるが、それはあくまでも観客を油断させる手段。本編に入るとふざけた部分は皆無だった。

 日本に不動産ビジネスのためにやってきた香港人女性サラ・クワン。だが予約ミスによりホテルへの宿泊ができなくなった彼女は、やむを得ず、一般の家屋を宿泊施設としている民泊で一夜を明かすことになる。だがそこは呪われた家だった。

 いわゆる『呪怨』タイプの作品だが、主人公がその家に泊る以外の選択肢が無くなっていく状況や、海外の人が被害に遭うのが珍しく、気づいたら夢中になってしまっていた。主人公が泊まる家の不気味さも半端なく、在り物を全てそのまま使ったとも思えず、こうした世界観を作り上げた美術班の仕事ぶりも素晴らしい。特にトイレの汚さは『トレインスポッティング』(1996)に出てきた史上最悪のトイレに匹敵する出来で、絶対に用を足したくない場所として脳裏に焼き付くことだろう。

 主演は2010年の『ドリーム・ホーム』が強烈に記憶に残るジョシー・ホー。この作品では高級マンションを値下げさせるため、連続殺人を繰り広げる女性を演じていたが、本作では恐怖におびえる側を非常にリアルに演じている。あまりの恐怖に警察に駆け込んだ主人公に対応する刑事を演じたのは高橋和也。映画、テレビに出演し続け、主演でも脇でも印象を残す彼だが、本作ではアルコールに溺れ、鑑識医として同じ警察署で働く妹から叱責を受ける、ちょっとだらしないけど、事件には真摯に向き合う複雑な役どころを自分のものにしている。

香港の女性が東京の呪いの家に宿泊する民泊ホラー 絶対に泊りたくない家で恐怖体験 『怨泊 ONPAKU』
©2022 852 Films Limited. All Rights Reserved.

 監督は脚本と編集も兼任した藤井秀剛。中学を卒業後、単身渡米し、10年の海外生活を経て、カルフォルニア芸術学院に入学。2000年には『生地獄』で監督デビューし、『狂視』(2017)や。『超擬態人間』(2019)など、カルト的な人気を博してきた。今回はこれまでの作品でも多用してきたカラコレ技術により磨きをかけ、ほぼモノクロという色彩表現で観客を絶望のどん底に突き落としてくれる。

 これまでも日本で外国人が怖い思いをする映画として、清水崇監督が初めて全米1位を獲得した『THE JUON/呪怨』(2004)や落合正幸監督の『シャッター』(2008)、そして樹海を舞台にした『JUKAI -樹海-』(2016)などが作られてきたが、本作はそうした作品に引けを取らない、忘れられない一本になるはずだ。

 ありがちなパターンを捨て去り、尚且つ社会問題を潜ませた本作の志は、かなり高いところにあると感じた。後半に進むにつれ、『悪魔のいけにえ』(1974)など名作ホラーのエッセンスも上手く取り入れ、藤井ワールドが炸裂している。先だって公開された香港では、初登場3位を記録、マレーシアなどでは全国50館で拡大上映されているとのこと。夏にはぴったりの新たなホラーとして是非お薦めしたい。

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香港の女性が東京の呪いの家に宿泊する民泊ホラー 絶対に泊りたくない家で恐怖体験 『怨泊 ONPAKU』

飯塚克味(いいづかかつみ)
番組ディレクター・映画&DVDライター
1985年、大学1年生の時に出会った東京国際ファンタスティック映画祭に感化され、2回目からは記録ビデオスタッフとして映画祭に参加。その後、ドキュメンタリー制作会社勤務などを経て、WOWOWの『最新映画情報 週刊Hollywood Express』の演出を担当した。またホームシアター愛好家でもあり、映画ソフトの紹介記事も多数執筆。『週刊SPA!』ではDVDの特典紹介を担当していた。現在は『DVD&動画配信でーた』に毎月執筆中。TBSラジオの『アフター6ジャンクション』にも不定期で出演し、お勧めの映像ソフトの紹介をしている。


【作品情報】
怨泊 ONPAKU
2024年7月19日(金)より新宿武蔵野館ほか全国順次ロードショー
配給:フリーマン・オフィス
©2022 852 Films Limited. All Rights Reserved.

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