こだわり抜いた映像美が画面を覆い尽くす ロバート・エガース監督の芸術ホラー  『ノスフェラトゥ』

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飯塚克味のホラー道 第122回『ノスフェラトゥ』

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 ブラム・ストーカーが1897年に発表した怪奇小説の古典『吸血鬼ドラキュラ』は、1922年にドイツでF・W・ムルナウが『吸血鬼ノスフェラトゥ』と映画化し、その後、幾度となく映画をはじめ、マンガやアニメなど様々な形で焼き直されている。中でもユニバーサルの『魔人ドラキュラ』(1931)は大ヒットを記録。1958年にはイギリスのハマープロが、クリストファー・リー主演で『吸血鬼ドラキュラ』を製作し、イメージをより強烈なものにした。70年代後半には舞台のドラキュラがヒットし、それを受け、ロマンチック度を上げた『ドラキュラ』(1979)や、コメディ『ドラキュラ都へ行く』(1979)などが作られた。1992年にはフランシス・フォード・コッポラが、デジタルサウンドを駆使した『ドラキュラ』を監督。こちらも空前のヒットとなった。近年では『トワイライト』シリーズ(2008~2012)のようなヒット作もあるが、いずれも怪奇色よりラブロマンス要素に力を入れる傾向が目立っている。そんな中、『ウィッチ』(2015)や『ライトハウス』(2019)のロバート・エガース監督が、長年構想していた形で映画化を実現したのが本作だ。

 ロバート・エガースは9歳の時に、『吸血鬼ノスフェラトゥ』を見て以来、夢中になり、自分なりの作品を作りたいと切望。高校時代に、サイレント映画をイメージし、セットをモノクロだけで仕上げた舞台を作り上げる。この舞台版は、ある劇場の芸術監督の目にするところとなり、エガースは本物の劇場で公演を果たす。このことがきっかけで映画監督への道を目指すことになったというのだから、人生は何が起こるか分からない。『ウィッチ』の成功後、エガースは『ノスフェラトゥ』の映画化を進めようとするが、結局『ライトハウス』とバイキング映画『ノースマン 導かれし復讐者』(2021)を先に製作することになる。つまり本作はエガースにとって念願の企画であり、彼の映画監督としての目標でもあったのだ。

 話は大元の原作に忠実な形で進む。不動産業者の青年トーマスが、仕事上の手続きのため、トランシルヴァニアに暮らすオルロック伯爵を訪ねるが、伯爵は吸血鬼だった。そして残された妻エレンは幻想に悩まされるようになっていく。

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 出演する俳優陣はエレン役にジョニー・デップの娘リリー=ローズ・デップ。クライマックスでは衝撃の表情で観客を圧倒するのだが、これがCGを一切使わず、本人が演じたというのだから驚かずにはいられない。エレンの夫トーマスには『レンフィールド』(2023)でドラキュラの執事を演じたばかりのニコラス・ホルト。オルロック伯爵には『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』(2017)のビル・スカルスガルド。言われなければわからないほどの変身ぶりを見せている。その他、アーロン=テイラー・ジョンソンやウィレム・デフォーも重要な役を演じている。

 『ノースマン 導かれし復讐者』でも徹底したこだわりを見せたエガース監督は、本作でも同じスタッフを集め、妥協のない画作りを追及している。撮影ではほぼモノクロのようなフィルム撮影を行い、特に月の明るさには細心の注意を払ったそうだ。建物や衣装の再現にも当時と変わらぬ本物を追い求め、結果、第97回アカデミー賞で撮影賞、美術賞、衣装デザイン賞、メイクアップ&ヘアスタイリング賞でノミネートを受けた。

 製作費5000万ドルに対し、全米では9560万ドル、海外では8540万ドルの大ヒットを記録。日本国内では作品の本領が発揮されるIMAXやドルビーシネマでの上映は見送られているが、4Kプロジェクターが設置してあるなど、できるだけ環境のいい映画館でご覧頂きたい。

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飯塚克味(いいづかかつみ)
番組ディレクター・映画&DVDライター
1985年、大学1年生の時に出会った東京国際ファンタスティック映画祭に感化され、2回目からは記録ビデオスタッフとして映画祭に参加。その後、ドキュメンタリー制作会社勤務などを経て、WOWOWの『最新映画情報 週刊Hollywood Express』の演出を担当した。またホームシアター愛好家でもあり、映画ソフトの紹介記事も多数執筆。『週刊SPA!』ではDVDの特典紹介を担当していた。現在は『DVD&動画配信でーた』に毎月執筆中。TBSラジオの『アフター6ジャンクション』にも不定期で出演し、お勧めの映像ソフトの紹介をしている。


【作品情報】
ノスフェラトゥ
2025年5月16日(金)TOHOシネマズ シャンテほかにて公開
配給:パルコ ユニバーサル映画
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