西表島に眠る過去に光 作品の価値や制作秘話を語る ドキュメンタリー映画「緑の牢獄」特別対談

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西表島に眠る過去に光 作品の価値や制作秘話を語る ドキュメンタリー映画「緑の牢獄」特別対談

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 沖縄県西表島に住む90歳の女性と、女性の過去の記憶を追ったドキュメンタリー映画「緑の牢獄」が、3月27日の沖縄・桜坂劇場を皮切りに全国公開される。公開を前に、23日に都内で、黄インイク監督、「なぜ台湾は新型コロナウィルスを防げたのか」を昨年出版したジャーナリストの野嶋剛氏、ドキュメンタリー制作集団・NDUの井上修氏の3名が登壇し、本作について語った。

 「緑の牢獄」で焦点が当てられているのは、沖縄県西表島に住む90歳の女性。植民地時代の台湾から養父とともに島へ来て以来、人生のほとんどを西表島で過ごしてきた。女性の現在の日常とともにフォーカスされるのは、彼女の記憶。西表島には半世紀以上放置された炭鉱があり、暴力、伝染病、麻薬といったかつての負の歴史が眠っている。女性の養父は炭鉱の親方で、労働者の斡旋や管理をしていた。そんな炭鉱に、女性は今もなお後ろめたさを抱いている。沖縄を拠点とする若手監督の黄インイクによる、「八重山の台湾移民」をテーマとするドキュメンタリーシリーズの2作目にあたる。

 長年に渡り中華圏と東アジア国際関係を取材してきた野嶋氏は、「西表島に炭鉱があったことは恥ずかしながら私も知らなかった。このテーマを見つけてきた時点で既にニュース性がある。地上の楽園といま思われている西表島にこんな過去があるという点でも意外性があり、作品の価値を高めている」と本作のポイントを挙げた。

 本作では主人公である女性の養父の映像が使用されている。ドキュメンタリー集団・NDU(日本ドキュメンタリストユニオン)が、1970年代に本土復帰前後の沖縄を記録した作品「アジアはひとつ」の中に収められた映像と肉声である。50年前の映像が本作で使われたことに井上は、「びっくりしたんですよ。50年前作ったものが、こうして若い人の作品で大切に使ってもらえて。(主人公の養父の映像を)見つけただけで、作品がうまくいく証ですよね。ドキュメンタリーにはそういう念力みたいなもんがあるんですよ」と感慨を見せた。

 黄監督は本作について、「最初は八重山の台湾人という、あまり知られていない謎の多いグループへの好奇心が根本にはありました。そこからどんどん移民や歴史という大きな枠組みから家族や個人への興味が強くなっていきました」と制作のきっかけについて語った。また野嶋氏は、「沖縄というテーマは日本と台湾という形で捉えることもできますが、八重山というのはさらにその沖縄と台湾の狭間、西表というのは八重山と台湾の狭間の中の狭間にある形で、重層的に問題が見えてくる場所でもあります。そこに光を当てた作品を完成させた黄監督に敬意を表したいと思います」とエールを送っていた。

【作品情報】
緑の牢獄
2021年3月27日(土)より、沖縄・桜坂劇場を皮切りに東京・ポレポレ東中野、大阪・第七藝術劇場をはじめ全国ロードショー
配給:ムーリンプロダクション、シグロ
© 2021 Moolin Films, Ltd. & Moolin Production, Co., Ltd.

  • 作品

緑の牢獄

公開年 2021年
製作国 日本、台湾、フランス
監督  黄インイク
出演  
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