鶴田法男監督が中国でもいかんなく才能発揮 ホラーとはかくあるべきという作品 『戦慄のリンク』レビュー

映画スクエア

著者名:飯塚 克味

鶴田法男監督が中国でもいかんなく才能発揮 ホラーとはかくあるべきという作品 『戦慄のリンク』レビュー
©2020伊梨大盛伝奇影業有限公司

飯塚克味のホラー道 第33回『戦慄のリンク』

 オリジナルビデオ映画『ほんとにあった怖い話』でJホラーの父と呼ばれるようになった鶴田法男監督の新作が公開される。しかも中国資本で作られた完全な中国映画である。一体、どんな映画になっているのか、気にならないのならホラーファンとは言えない事態だ。鶴田監督がJホラーの父と呼ばれるようになった経緯は、本コーナーの第29回(Jホラーの原点、ここにあり! 鶴田法男監督「ほんとにあった怖い話 新装版」レビュー)で記したので、そちらをお読み頂ければわかると思う。最近の日本のホラーは、ホラーに見せかけて、実は恐怖を描くことに関心がない作品ばかりでがっかりさせられることの連続だった。その点、鶴田監督は「どうやったら観客を怖がらせることができるのか?」「どう見せたら、恐怖の存在を信じてもらえるのか?」と常にホラーのあるべき姿を追求し続けているので、今回も予告編の段階から非常に安心して観ることができた。

 企画の発端は、中国で10数年前に話題となったネットホラー小説『彼女はQQで死んだ』の映画化が進んだことから始まる。QQとは中国大手のSNSのことだ。鶴田監督の作品は中国で公開されていないものの、原作者が鶴田監督を指名してきたらしい。ただし、ここで大きな障壁の存在が明らかになる。中国では幽霊の存在が許されない。例え幽霊が出てきても夢オチか幻覚ということにしなければならないのだ。しかも事件は最後、必ず警察が解決することになっている。この約束を守らないと、当局の審査を通過することができず、制作そのものが頓挫してしまう。まるでプロレス技を全て禁じられたアントニオ猪木VSモハメド・アリ戦とも言うべき状況。こんな状況を鶴田監督が、どう乗り切ったのか、是非映画を観て確認してもらいたい。

 ストーリーは王道のホラーと呼べるもの。小説家志望の女性タン・ジンから深夜に電話を受け取った従妹のジョウ・シャオノアは、彼女がひどくおびえていることに不安を覚え、翌日訪ねると、彼女は死んでいた。状況から自殺とされるが、そんなはずはないと、シャオノアは調査を始める。大学の先輩で犯罪心理学に詳しいマー・ミンの手を借りて、タン・ジンのパソコンを調べると、「残星楼」という小説を読んでいたらしい。シャオノアもそれを読んでみるのだが、不思議な声が聞こえたり、幻覚を見るようになってしまう。この小説は一体何なのか?そして再び惨劇が起きてしまう。

 主役のジョウ・シャオノアには、『西遊記 女人国の戦い』(2018)や『花より団子』の中国リメイク版TVドラマなどに出演しているスン・イハン。モデルとしても活動していて、中国新世代の俳優として注目されている。マー・ミン役には台湾で活躍しているフー・モンボー。日本でも公開された台湾ホラー『返校 言葉の消えた日』(2019)で、女生徒から思いを寄せられる教師役だったと言ったら思い出す人もいるだろう。本作では全くイメージの異なる役にチャレンジしている。

 中国では2020年10月に5000スクリーンというとてつもない規模で公開された本作。それに比べると、日本での扱いはかなり小さいものだが、それでも劇場で観るべき作品だと強くプッシュしたい。幻想に陥る暗めの場面は映画館の暗闇で観てこそ効果が上がるショットだし、女性の不気味な笑い声が後方から聴こえたり、轟く雷鳴のサラウンドなど、映画館でしか体験できない演出が随所にあるからだ。因みに撮影を担当したのは、『Z~ゼット~ 果てなき希望』(2014)でも鶴田監督と組み、最近は大河ドラマ『鎌倉殿の13人』も担当している神田創。監督の要望を異国の地でも見事に映像化し、作品に貢献している。

 鶴田監督が、中国でもその才能をいかんなく発揮した最新作。ホラーとはかくあるべきという作品に仕上がっているので、映画館で恐怖体験をしたい人は是非、足を運んでほしい。

鶴田法男監督が中国でもいかんなく才能発揮 ホラーとはかくあるべきという作品 『戦慄のリンク』レビュー
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鶴田法男監督が中国でもいかんなく才能発揮 ホラーとはかくあるべきという作品 『戦慄のリンク』レビュー

飯塚克味(いいづかかつみ)
番組ディレクター・映画&DVDライター
1985年、大学1年生の時に出会った東京国際ファンタスティック映画祭に感化され、2回目からは記録ビデオスタッフとして映画祭に参加。その後、ドキュメンタリー制作会社勤務などを経て、現在はWOWOWの『最新映画情報 週刊Hollywood Express』(毎週土曜日放送)の演出を担当する。またホームシアター愛好家でもあり、映画ソフトの紹介記事も多数執筆。『週刊SPA!』ではDVDの特典紹介を担当していた。現在は『DVD&動画配信でーた』に毎月執筆中。TBSラジオの『アフター6ジャンクション』にも不定期で出演し、お勧めの映像ソフトの紹介をしている。


【作品情報】
戦慄のリンク
2022年12月23日(金)より 新宿シネマカリテほか全国ロードショー
配給:フリーマン・オフィス
©2020伊梨大盛伝奇影業有限公司

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