何よりも大切な娘が、狂気の怪物? 子役の演技が怖すぎるサイコスリラー 『侵蝕』

映画スクエア

著者名:飯塚 克味

飯塚克味のホラー道 第133回『侵蝕』

何よりも大切な娘が、狂気の怪物? 子役の演技が怖すぎるサイコスリラー 『侵蝕』
© 2025 STUDIO SANTA CLAUS ENTERTAINMENT CO.,LTD. All Rights Reserved.

 子どもというのは、実は不気味な存在である。人によっては、まだ命の価値を理解していないこともあって、平気で弱者を攻撃するし、場合によっては虫や小動物の命を奪ってしまう。モラルを身に付けるのは親にとって最重要課題であるのは明白なことだ。だが、仮にどんなに命の重要性を説いても、全く響かず、それどころか他者の痛みや命を奪うことに強い関心を持ってしまったらどんなことになるのか?この韓国映画は、そんな怖さをじっくり、リアルに描いている。

 主人公は水泳インストラクターをしているヨンウン。最近、離婚した彼女は7歳の娘ソヒョンと暮らしていた。だがソヒョンは犬を殺したり、「恐怖体験ごっこ」と称して、幼稚園で友達に危険な思いをさせたり、問題ばかり起こしている。そしてその矛先は母親であるヨンウンにも向かってくる。やがて明かされる離婚の理由、ヨンウンの決心など、思いがけない展開が登場人物に襲いかかる。

 子どもの邪悪な側面を描くのは古くはマーヴィン・ルロイ監督の『悪い種子(たね)』(1956)やロバート・マリガン監督の『悪を呼ぶ少年』(1972)など数多く作られ、極めつけとしては子どもそのものに悪魔が乗り移った『エクソシスト』(1973)や『オーメン』(1976)が思い浮かぶだろう。イタリア映画の『ザ・チャイルド』(1976)も多くの人にトラウマ映画として記憶されているはずだ。『ホーム・アローン』(1990)の大ヒットでスターになったマコーレー・カルキンが、『ロード・オブ・ザ・リング』(2001)のイライジャ・ウッドを痛めつける『危険な遊び』(1993)も不気味な映画だった。

何よりも大切な娘が、狂気の怪物? 子役の演技が怖すぎるサイコスリラー 『侵蝕』
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 だが子役の印象深さでは、韓国映画が忘れ難い。携帯電話で子どもが呪いの着信を受けてしまう『ボイス』(2002)や、謎の呪いに苦しむ子どもが忘れ難い『哭声 コクソン』(2016)など、どれも子役の演技が、演技という枠から大きく飛び出していて、一体どうやって撮影したのか、いまだに分からないほどだ。

 本作ではキ・ソユという子役が、この難役を見事に演じ切っていて、驚かされること必至だ。2018年からドラマに出ている彼女は撮影時、まだ7歳くらいだったはず。映画を観たら、今後の彼女に注目せずにはいられないだろう。母親を演じるのはクァク・ソニョン。ドラマ中心のキャリアだが、娘の暴走を止められずに苦悩する母親を熱演している。その他にもクォン・ユリ(少女時代)やイ・ソルが出演しているが、彼女たちがどのような役で出てくるかは、映画を観てのお楽しみに取っておくべきだろう。

 最近、国内でも『ドールハウス』(2025)や『近畿地方のある場所について』(2025)がスマッシュヒットとなっているが、お隣の国、韓国でもこんなに身近な素材を、猛烈に怖い映画に仕上げている。子どもを持つ親だったら、より強い衝撃を受けるだろうが、若い世代だったら、将来子どもを持つことが怖くなってしまうかもしれない。日本同様、少子化が加速する韓国でこうした映画が大ヒットしたという社会性もまた興味深いところだ。是非、スクリーンでこの映画の本領を体感してもらいたい。

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何よりも大切な娘が、狂気の怪物? 子役の演技が怖すぎるサイコスリラー 『侵蝕』

飯塚克味(いいづかかつみ)
番組ディレクター・映画&DVDライター
1985年、大学1年生の時に出会った東京国際ファンタスティック映画祭に感化され、2回目からは記録ビデオスタッフとして映画祭に参加。その後、ドキュメンタリー制作会社勤務などを経て、WOWOWの『最新映画情報 週刊Hollywood Express』の演出を担当した。またホームシアター愛好家でもあり、映画ソフトの紹介記事も多数執筆。『週刊SPA!』ではDVDの特典紹介を担当していた。現在は『DVD&動画配信でーた』に毎月執筆中。TBSラジオの『アフター6ジャンクション』にも不定期で出演し、お勧めの映像ソフトの紹介をしている。


【作品情報】
侵蝕
2025年9月5日(金)新宿ピカデリーほか全国ロードショー
配給:シンカ
© 2025 STUDIO SANTA CLAUS ENTERTAINMENT CO.,LTD. All Rights Reserved.

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