ドラマ版もチェックするとより楽しめる ヒット映画オマージュも 『呪呪呪/死者をあやつるもの』

映画スクエア

著者名:飯塚 克味

ドラマ版もチェックするとより楽しめる ヒット映画オマージュも 『呪呪呪/死者をあやつるもの』

飯塚克味のホラー道 第36回 『呪呪呪/死者をあやつるもの』

 『新感染 ファイナル・エクスプレス』(2016)を初めて見た時の衝撃は、今でも忘れない。自分が観たのは海外版のブルーレイだったが、限られたシチュエーションの中、次々とあふれるアイデア、俳優陣の見事な演技、プロローグとエンディングのまとめ方などなど、娯楽映画の手本とも言うべき完成度になっていたことは、誰もが思ったことだろう。

 その生みの親であるヨン・サンホ監督が脚本を書き、『新感染~』でもいい味を出していたマ・ドンソクが出演した好篇『ファイティン!』(2018)を演出したキム・ヨンワンが監督を務めた新作ホラーがいよいよ公開される。しかし、ちょっと気を付けてもらいたい点があるので、注意しておきたい。それは、本作がTVシリーズの延長線上にある、事実上の続編であるということだ。分かりやすく言うと、『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』(2020)のようなもので、もちろん単体で観ても十分楽しめるのだが、そこに至るまでのドラマ版もチェックしておくと、より楽しめるようになっているのだ。

 ドラマ版は、『謗法(ほうぼう) ~運命を変える方法~』(2020)のタイトルで、現在Netflixで全12話が配信されている。制作は『愛の不時着』(2019)や『シスターズ』(2022)など、高品質のドラマを生み出してきたスタジオドラゴン。ある意味、A24やサーチライト・ピクチャーズのような観る者に安心感を与えてくれるブランドと言えよう。

 ドラマ版のストーリーは、正義感の強いジャーナリスト、イム・ジニの前に、少女の呪術師ソジンが現れ、二人が協力して国内最大のIT企業フォレストの悪事を暴こうとするもの。リアルな社会問題と、呪いというファンタジックな要素がうまく絡み、1話あたりが1時間前後という長さにもかかわらず、観る者を引きつけずにはいられないものになっている。

 今回の映画版のストーリーはこうだ。ある殺人事件が発生し、容疑者が3か月前に死亡していた人物であることが判明する。警察が困惑する中、ジャーナリストのイム・ジニに、犯人を名乗る人物からインタビューに応じるとの連絡が入る。夫が刑事でもあるイム・ジニは警察と手を組み、インタビューの準備をして待つが、現れた人物は謎の言葉を残して、またしても死んでしまう。やがて背後に、ある製薬会社の陰謀があったことが明らかになっていき、呪いによって蘇えった死者たちの襲撃が繰り返される。犯人たちの狙いは?イム・ジニたちは真相を暴き、呪いを止めることができるのか?というものだ。

 蘇った死者たちの襲撃シーンが『ターミネーター2』(1991)のT-1000を思わせたり、マント姿の死体が『マリグナント 凶暴な悪夢』(2021)の殺人鬼に見えるなど、ヒット映画へのオマージュもあちこちに潜んでいる見どころ満載の本作。ドラマ版未視聴だとやや戸惑うところもあるかと思うが、それでも観客を楽しませようとする作り手の精神は強烈に伝わるはずだ。死者が務めを果たした後、土くれになって砕ける場面や、ターゲットが乗った車に死者たちが飛び移る場面など、CGの使い方も、明らかにそれと分かった『新感染半島 ファイナル・ステージ』(2020)よりはるかにセンスがよく、進化もしている印象だ。

 ドキドキハラハラの連続の後、マスコミのあるべき姿を提示し、その上、感動の要素まで入れても破綻しないのだから、ヨン・サンホとキム・ヨンワンの今後に期待するなという方が無理だろう。是非、映画館でこの密度の濃いホラー映画に震えてほしい。

ドラマ版もチェックするとより楽しめる ヒット映画オマージュも 『呪呪呪/死者をあやつるもの』

【作品情報】
呪呪呪/死者をあやつるもの
2023年2月10日(金)より新宿バルト9ほか全国公開
©2021 CJ ENM, CLIMAX STUDIO ALL RIGHTS RESERVED


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ドラマ版もチェックするとより楽しめる ヒット映画オマージュも 『呪呪呪/死者をあやつるもの』

飯塚克味(いいづかかつみ)
番組ディレクター・映画&DVDライター
1985年、大学1年生の時に出会った東京国際ファンタスティック映画祭に感化され、2回目からは記録ビデオスタッフとして映画祭に参加。その後、ドキュメンタリー制作会社勤務などを経て、現在はWOWOWの『最新映画情報 週刊Hollywood Express』(毎週土曜日放送)の演出を担当する。またホームシアター愛好家でもあり、映画ソフトの紹介記事も多数執筆。『週刊SPA!』ではDVDの特典紹介を担当していた。現在は『DVD&動画配信でーた』に毎月執筆中。TBSラジオの『アフター6ジャンクション』にも不定期で出演し、お勧めの映像ソフトの紹介をしている。

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