「鉄は熱いうちに叩け」と誰かに言われたのか、昨年の大ヒットを受けて、早々にシリーズ第3弾『テリファー 聖夜の悪夢』が作られた。先立つ全米公開では、誰もが大ヒットを疑わなかった超大作『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』(2024)を打ち破り、初登場1位を獲得。しかも本作、今回も誰もがその目を覆いたくなるほどのR-18指定なのだから、驚きだ。予算規模は前作の25万ドル(当時のレートで約3,300万円)から200万ドル(約3億5000万円)に大幅アップ。ハリウッド規模では低予算の部類に入るが、恐らく、デイミアン・レオーネ監督にとっては、どうやって使ったらよいのか分からないほどの大金だったのではないだろうか?
そんなメジャー化したシリーズ第3作だが、内容の方は特に大きく変わることはなく、前作までの流れをしっかり踏襲している。前作で不思議な能力を手にし、アート・ザ・クラウンを撃退したシエナだったが、その後は叔母の家に身を寄せ、おとなしい暮らしを送っていた。弟のジョナサンも寮生活に戻っていたが、二人とも、突然襲ってくるトラウマには悩んでいた。そして首を切り落とされたアート・ザ・クラウンは、恐るべき力で復活を遂げ、新たな犠牲者探しをしていたのだ。
大方の観客の期待を全く失わない展開ではあるが、殺し方だけはアップデートが行われ、通常の感性であれば、正視できない場面の連続だ。しかし、そんな中でも目を引くのはアート・ザ・クラウン役のデヴィッド・ハワード・ソーントンの完璧すぎるパントマイム演技だろう。一切言葉を発しないながらも、見事な表情と手足の動きで関心を引き、その後、惨殺を行う流れはアメリカの劇場では拍手喝采だったのか?それとも耐えきれずに途中退席だったのか?
映像は、今回も昔のビデオ撮りのようなやや甘い画質になっている。しかしシネスコサイズになったことで、映画的な広がりを生み出し、ある世代には奇妙なデジャブ感を与えることだろう。監督が自ら行う特殊メイクは、本作でも健在。首なしクラウンが、首だけクラウンと再会し、凄まじい顔の女性が協力者になる場面だけでもあまりの壮絶さにドン引きしてしまうレベルだ。また子どもだけは何があっても大丈夫というハリウッド制作のホラーにあったルールも簡単にぶち破ってくるので、相当な覚悟を持って、映画館に行ってほしい。
アート・ザ・クラウンの殺し方はどれも凝りに凝った見事なものばかり。中でも液体窒素を使って、正面だけを凍らせて、ハンマーでたたき割る人体破壊は必見!まるでグルメ番組で表カリカリ、中ふんわりといった感じでやってしまうのだから、あ然としてしまう。液体窒素と言えば、映画ファンなら『ターミネーター2』(1991)を思い起こす人もいるだろうが、しっかりオマージュを捧げているので、そこも楽しみにしてほしいポイントだ。他にもホラーの名作をパロった場面が随所に出てくるので、鑑賞後、「あそこはアレだよね」と友達同士で答えを突き合わせるのもいいだろう。
クライマックスは当然、アート・ザ・クラウンとシエナの死闘となる。どう決着が付くのは、その目で確かめてほしい。だがすでにアナウンスされているように、更なる続編の製作が決定しているので、そのことだけは頭に入れておくと、ラストの余韻も、次回作への期待と変わっていくだろう。すでに全世界で8740万ドル(約130億円)という、あり得ない稼ぎ方をしている『テリファー 聖夜の悪夢』、その後が楽しみで仕方ない。
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飯塚克味(いいづかかつみ)
番組ディレクター・映画&DVDライター
1985年、大学1年生の時に出会った東京国際ファンタスティック映画祭に感化され、2回目からは記録ビデオスタッフとして映画祭に参加。その後、ドキュメンタリー制作会社勤務などを経て、WOWOWの『最新映画情報 週刊Hollywood Express』の演出を担当した。またホームシアター愛好家でもあり、映画ソフトの紹介記事も多数執筆。『週刊SPA!』ではDVDの特典紹介を担当していた。現在は『DVD&動画配信でーた』に毎月執筆中。TBSラジオの『アフター6ジャンクション』にも不定期で出演し、お勧めの映像ソフトの紹介をしている。
【作品情報】
テリファー 聖夜の悪夢
2024年11月29日(金)よりTOHOシネマズ 新宿ほか全国公開
配給:プルーク、エクストリームフィルム
©Terrifier 3 LLC, 2024