逃げ場のない悪夢で襲ってくる最恐ホラーキャラ、フレディが4Kで復活 『エルム街の悪夢』

映画スクエア

著者名:飯塚 克味

飯塚克味のホラー道 第106回『エルム街の悪夢』

逃げ場のない悪夢で襲ってくる最恐ホラーキャラ、フレディが4Kで復活 『エルム街の悪夢』
TM & © 2011 New Line Productions, Inc. All rights reserved.

 今をさかのぼること、およそ40年前。1985年5月末、日本で初めて開催されたTAKARAファンタスティック映画祭(のちの東京国際ファンタスティック映画祭)というイベントがあった。第1回となる東京国際映画祭の協賛企画のひとつで、都内有数の大劇場、渋谷パンテオンを会場にしていた。1300人規模の大劇場の巨大スクリーンで、マニア受けするホラー映画を上映するなんて、まともな神経ではないが、当時の日本ではこれが実現可能だった。

 当時、大学に入学したばかりの自分もそこに通い詰めたのだが、週末に行われたオールナイトイベントが大盛況で素晴らしかった。映画祭の目玉である4本の新作を一挙上映。ラインナップは、ジョージ・A・ロメロ監督の『クリープショー』(1982)、まだ誰も知らなかったリュック・ベッソンのデビュー作『最後の戦い』(1983)、デヴィッド・クローネンバーグ監督の『デッドゾーン』(1983)。そしてこれが日本初お目見えとなった『エルム街の悪夢』(1984)だったのだ。上映された順番は3本目。普通なら、ちょっと眠気がやって来る時間帯だが、この映画は観客の眠気を吹き飛ばす最高の出来だった。今でいう応援上映、絶叫上映の走りだった東京ファンタだったが、観客の興奮度は完全にMAX。コンサートのような熱気の中で、映画は大盛り上がりだった。公開はちょうど1年後だったが、映画祭のクチコミが広がり、こちらも大成功を収めた。その後、シリーズ化され、ホラー映画のアイコンと化したのは誰もが知るところだ。

 物語はよく練られている。エルム街に暮らす若者たちが、同じ悪夢に苦しむようになり、その内の一人、ティナが本当に死んでしまう。殺人犯と疑われたのは、殺人の時、同室にいたボーイフレンドのロッド。だがそのロッドも警察署で亡くなってしまう。署長の娘ナンシーは、夢に出てくる謎の男が犯人だと主張するが、父親はもちろん、誰も信じてくれない。やがてナンシーにも危機が迫ってくる。

 監督のウェス・クレイヴンは、1982年に、(後に『鮮血の美学』と改題された)『白昼の暴行魔 II/17才・襲われた誕生日』(1972)がテレビ放映され、1984年の夏には『サランドラ』(1977)が劇場公開されていたが、日本では知名度がなく、誰も注目していなかったのだが、本作の公開で一躍、有名監督の仲間入りを果たした。

 そして夢に出てくる殺人鬼フレディを演じたロバート・イングランドも一世一代の当たり役となり、2003年の『フレディVSジェイソン』までフレディ役を演じ続けた。ナンシーにはヘザー・ランゲンカンプ。『エルム街』シリーズにはこの後、2本に出演し、ウェス・クレイヴン監督の『ショッカー』(1989)にも参加。現在も俳優として活躍している。ナンシーの父親役には『燃えよドラゴン』(1973)のジョン・サクソン。ナンシーの彼氏グレンには、これがデビューとなったジョニー・デップが扮している。また短い場面ながら、『インシディアス』シリーズ(2010~2018)で霊媒師エリーズを演じたリン・シェイが教師役で出演している。

逃げ場のない悪夢で襲ってくる最恐ホラーキャラ、フレディが4Kで復活 『エルム街の悪夢』
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 本作の魅力は、夢という自分の力ではどうしようもない世界で、神出鬼没に襲ってくるフレディというキャラクターを作り上げたことだろう。またそうした設定を自分のものとし、ユーモアを付け加えて、磨きをかけていったロバート・イングランドの力も、相当影響している。そうでなければあれだけの長寿シリーズにはならないはずだ。

 10月末には製作40周年を記念して、4K UHDが発売された。シリーズ初となる4K化だが、この出来が本当に見事で、背筋がぞくぞくする興奮を感じられるほどだった。冒頭、ティナが見る悪夢では、背景の白がHDR効果で眩しいほど輝き、映像の力が夢と現実の境界を乗り越えてくる。少女たちが縄跳びをする幻想的なショットのスローモーション効果も抜群だ。入浴中のナンシーが襲われる有名な場面では水から出てくる鉤爪が実に不気味だし、バスタブの底が抜けたような映像では、黒が締まって広がる闇が本当に怖い。音もモノラルからドルビーアトモスに変わったことで劇的に映画を盛り上げてくれる。フレディが爪を研ぐ音や、ショッカー音の数々がスリリングに迫ってくる。元のモノラルも入っているので、聴き比べるのも楽しいはずだ。

 最近のヒット作『テリファー』シリーズのダミアン・レオーネ監督も、フレディは特にお気に入りらしく、インタビューでもその思いをあちこちで語っている。いつかアート・ザ・クラウンがフレディと共演する日も来るのではないだろうか?全ての原点である、この第1作目。最高のクオリティで蘇った4K UHDで是非体験してもらいたい。

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逃げ場のない悪夢で襲ってくる最恐ホラーキャラ、フレディが4Kで復活 『エルム街の悪夢』

飯塚克味(いいづかかつみ)
番組ディレクター・映画&DVDライター
1985年、大学1年生の時に出会った東京国際ファンタスティック映画祭に感化され、2回目からは記録ビデオスタッフとして映画祭に参加。その後、ドキュメンタリー制作会社勤務などを経て、WOWOWの『最新映画情報 週刊Hollywood Express』の演出を担当した。またホームシアター愛好家でもあり、映画ソフトの紹介記事も多数執筆。『週刊SPA!』ではDVDの特典紹介を担当していた。現在は『DVD&動画配信でーた』に毎月執筆中。TBSラジオの『アフター6ジャンクション』にも不定期で出演し、お勧めの映像ソフトの紹介をしている。


【作品情報】
『エルム街の悪夢』
【初回限定生産】4K ULTRA HD&ブルーレイセット8,580 円(税込)
発売元:ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント
販売元:NBC ユニバーサル・エンターテイメント
TM & © 2011 New Line Productions, Inc. All rights reserved.

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