いつもこの連載をご覧になっている方の中には、日本のホラーがあまり取り上げられないことを不満に思っている方もいらっしゃるのではないだろうか?もちろん観ていない訳ではなく、色々観た中で取捨選択しているので、どうかご容赦頂きたい。でも問答無用に面白い作品は今回のように取り上げるので、是非、映画館で楽しんでもらいたいと思っている。
『サユリ』は、いつものよくあるJホラー的なパターンで進んでいく。冒頭、呪いの家となった原因が簡単に描かれ、空き家となったその家に、何も知らない神木家の7人(構成は祖父母と父母、そして3兄弟)が引っ越してくる。だが次々と不可解なことが起き始め、ご近所さんは霊媒師を呼ぶことを薦め、中学3年生の神木則雄と同学年の女子は霊視ができるらしく、家から出るよう促してくる。そしてついに家族に犠牲者が出始めてしまう。
ここまで観ている間は、またいつものパターンか、とあきらめ気味になってしまうのだが、やけに家族が犠牲になるペースが速く、そんなに次々と殺したら、殺す人がいなくなっちゃうよ、と思ってしまう。正にそんな風に思ったタイミングで、この映画は大きく化けてくる。認知症で手が付けられないと思っていた祖母がいきなり覚醒!則雄と共に、家に巣食う悪霊に戦いを挑み始めるのだ。
この後半の展開は本当に凄まじくて面白い。悪霊と戦うという事はこういうことか!と日本映画の良いところを前面に出してくる。
原作は『ミスミソウ』や『ハイスコアガール』が有名な押切蓮介による累計20万部突破のベストセラーコミック。原作未読だったら、是非、映画館賞の後、手に取って読んでもらいたい。その原作を5年もの歳月をかけて映画化にたどり着けた監督は、『ノロイ』(2005)や『オカルト』(2008)などのフェイクドキュメンタリーや、『貞子vs伽椰子』(2016)、『不能犯』(2017)といったヒット作を生み出してきた白石晃士。白石監督と共に脚本を手掛けたのは『バイロケーション』(2013)や『アンダー・ユア・ベッド』(2019)などの監督作もある安里麻里だ。
主演の中3の少年、神木則雄役には南出凌嘉。認知症の祖母、神木春枝役には大ベテランの根岸季衣。最近では『ミッドナイトスワン』(2020)や『変な家』(2024)にも出ている。この二人の組み合わせが本当に見事なのだ。
クライマックスに行くに従って明らかになるサユリの正体と、家に隠された秘密。思っていたのとは全く違う方向に進む映画の展開。これぞ映画館で観るに相応しい夏休み向けのホラー映画として太鼓判を押したい快作となっている。詳しくは書けないのが何とも、もどかしいところではあるが、絶対面白いので観てほしい。
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飯塚克味(いいづかかつみ)
番組ディレクター・映画&DVDライター
1985年、大学1年生の時に出会った東京国際ファンタスティック映画祭に感化され、2回目からは記録ビデオスタッフとして映画祭に参加。その後、ドキュメンタリー制作会社勤務などを経て、WOWOWの『最新映画情報 週刊Hollywood Express』の演出を担当した。またホームシアター愛好家でもあり、映画ソフトの紹介記事も多数執筆。『週刊SPA!』ではDVDの特典紹介を担当していた。現在は『DVD&動画配信でーた』に毎月執筆中。TBSラジオの『アフター6ジャンクション』にも不定期で出演し、お勧めの映像ソフトの紹介をしている。
【作品情報】
サユリ
2024年8月23日(金)、全国公開
配給:ショウゲート
©2024「サユリ」製作委員会/押切蓮介/幻冬舎コミックス