ブギーマンとは、世界中の子どもたちに信じられている幽霊や妖怪のような存在だ。アメリカでは大人が子どもを脅す時に「ブギーマンが来るぞ」といった感じで使われることが多いらしい。日本だとオバケの存在が同様のものだろう。映画ではジョン・カーペンター監督の『ハロウィン』(1978)に出てくるマイケル・マイヤーズのことをブギーマンと呼んで子どもたちが恐れている。『ハロウィン』の続編の邦題はそのものずばり『ブギーマン』(1981)だったので、それで頭に焼き付いた人も多いだろう。『死霊のはらわた』(1981)のサム・ライミも自身のプロダクションで、『ブギーマン』(2005)と題したホラー作品を発表している。マニアックなところでは『死霊の鏡/ブギーマン』(1980)なんて珍作もあったくらい、ハリウッドではおなじみの存在になっている。
そんなブギーマンだが、またしても新たな作品が生み出された。原作となったのはホラーの帝王、スティーヴン・キングが1973年に発表した短編小説『子取り鬼』。わずか8Pの密室会話劇だが、それをベースに話を広げ、映画的なビジュアルを駆使して、エンタメホラーとして仕上げている。余談だが、キングの長編作品は、その膨大な情報量が映画化の際に失われてしまうため、『キャリー』(1976)や『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』(2017)のような例外を除けば、ほとんどが失敗に終わっている。逆に作り手の発想が自由に盛り込める短編や中編の映画化では『ミスト』(2007)や『スタンド・バイ・ミー』(1986)など傑作が生まれる傾向があることも頭に入れておいてほしい。
本作の基本的な話はこうだ。女子高生のセイディと幼い妹のソーヤーは、母親を事故で亡くし、カウンセリングをしている父親ウィルとぎくしゃくした関係の中、暮らしている。ある日、ウィルをレスターという男が訪ね、自身の子どもが3人、続けて亡くなったことを話す。それ以来、一家の家には何者かが現れるようになり、セイディたちは、その存在に立ち向かわざるを得なくなる。
監督は『ズーム/見えない参加者』(2020)や『DASHCAM ダッシュカム』(2021)のロブ・サヴェッジ。この2作でてっきりPOVタイプの映画がうまい新人かと思っていたら、17歳の時の短篇がクシシュトフ・キェシェロフスキの『トリコロール』三部作(1993~1994)に影響を受けていたり、きちんとしたドラマ作りが根底にあることが明らかにされ、簡単に人を判断してはいけないと思わせてくれた。製作には『ナイト ミュージアム』シリーズ(2006~2014)や『フリー・ガイ』(2020)のショーン・レヴィも参加していることも要チェックだ。俳優陣はいわゆるスターと呼ばれるような人々は出ていないが、逆にそれが先読みを許さない不安要素となっている。
画作り的には現代の撮影技術をうまく使ったものが目立ち、幼いソーヤーが夜に抱きしめる光るボールや、後半に出てくる家の床に敷き詰められたロウソクのショットなど、映画館で観たら効果絶大なショットが随所に用意されている。また後半には出し惜しみしない形でブギーマンが現れるのだが、その時の音響が何ともすさまじく、夏にホラー映画で飛び上がりたいという層にはピッタリの出来となっている。
映画館で散々楽しみ、家に帰ったら、きっと他のスティーヴン・キング原作の映画や、話題になったホラー映画も見てみたくもなるはず。あまりホラー映画に詳しくないけど、ちょっと怖い思いをしてみたいというライトユーザーには是非、本作を薦めたい。
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飯塚克味(いいづかかつみ)
番組ディレクター・映画&DVDライター
1985年、大学1年生の時に出会った東京国際ファンタスティック映画祭に感化され、2回目からは記録ビデオスタッフとして映画祭に参加。その後、ドキュメンタリー制作会社勤務などを経て、現在はWOWOWの『最新映画情報 週刊Hollywood Express』(毎週土曜日放送)の演出を担当する。またホームシアター愛好家でもあり、映画ソフトの紹介記事も多数執筆。『週刊SPA!』ではDVDの特典紹介を担当していた。現在は『DVD&動画配信でーた』に毎月執筆中。TBSラジオの『アフター6ジャンクション』にも不定期で出演し、お勧めの映像ソフトの紹介をしている。
【作品情報】
ブギーマン
2023年8月18日(金)全国劇場にて公開
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
© 2023 20th Century Studios.