デミ・ムーアがとんでもない姿になる変身スリラー クライマックスは阿鼻叫喚の地獄絵図 『サブスタンス』

映画スクエア

著者名:飯塚 克味

飯塚克味のホラー道 第121回『サブスタンス』

デミ・ムーアがとんでもない姿になる変身スリラー クライマックスは阿鼻叫喚の地獄絵図 『サブスタンス』
(c)2024 UNIVERSAL STUDIOS

 今年の春、デミ・ムーアがアカデミー賞にノミネートされたことで、大きな話題になった『サブスタンス』がいよいよ日本でも公開となる。デミ・ムーアと言えば、リアル世代ファンにとって、『ゴースト/ニューヨークの幻』(1990)を筆頭に、『セント・エルモス・ファイアー』(1985)や『きのうの夜は…』(1986)などの青春映画が記憶に残る大スターだ。また30代になってからもロバート・レッドフォード演じる大富豪に一夜の相手を頼まれる『幸福の条件』(1993)や、マイケル・ダグラスを相手にセクハラ問題を投げかける『ディスクロージャー』(1994)など話題作に続々と出演。しかし2003年の『チャーリーズ・エンジェル/フルスロットル』以降は、出演作こそあるものの、作品規模や注目度は大幅ダウン。ハリウッド女優40歳定年説を体現するような状況に陥ってしまっていた。恐らくは心中穏やかではなかったであろう彼女が起死回生に成功したのが本作だ。

 50歳を迎えた往年の大女優エリザベス。現在はフィットネス番組で、かろうじてかつての人気を保つ程度だ。ある日、運転中に自分の大看板が外されていることを目撃した彼女はショックで交通事故を起こしてしまう。そこで若い看護師からこっそり教えてもらったのが、サブスタンスという謎の連絡先だ。もらったUSBで動画を再生すると、よく分からないが若返りの秘策を授けてもらえるらしい。藁にも飛びつく思いで連絡し、もらった薬を投与したところ、なんともう一人の若返った自分が出現してしまった。約束事は1週間おきに元の自分と入れ替わること。注意事項として「あなたは一人だ」と言われていたものの、周囲の注目を浴びられる若い自分で過ごす時間をどうしても長くいさせたくなってしまう。だがその約束を破った時、恐るべきことが起きてしまう。

 若返ったエリザベスを演じたのは『ドライブアウェイ・ドールズ』(2023)のマーガレット・クアリー。はちきれんばかりの若さを、これでもかとアピールし、肉体的に衰えの目立つデミ・ムーアと対照的な役を演じている。因みに彼女の母親は『セックスと嘘とビデオテープ』(1989)や『グリーン・カード』(1990)に出ていたアンディ・マクダウェル。デミ・ムーアとは『セント・エルモス・ファイアー』でも共演しているところに縁を感じる。またフィットネス番組のプロデューサーで、デニス・クエイドも出演しており、テレビ業界における男社会の実態をイヤという程、見せつけている。

デミ・ムーアがとんでもない姿になる変身スリラー クライマックスは阿鼻叫喚の地獄絵図 『サブスタンス』
(c)2024 UNIVERSAL STUDIOS
デミ・ムーアがとんでもない姿になる変身スリラー クライマックスは阿鼻叫喚の地獄絵図 『サブスタンス』
(c)2024 UNIVERSAL STUDIOS

 監督はフランス出身で、2017年のレイプリベンジ映画『REVENGE リベンジ』で長編デビューしたコラリー・ファルジャ。自身が40代に突入しようという時、あらゆることを否定され、絶望感に囚われてしまったそうで、そうした価値観を吹っ飛ばすために、本作の脚本を書こうと思い立ったらしい。彼女の演出はスタンリー・キューブリックの『シャイニング』(1980)の左右対称の構図や、デヴィッド・クローネンバーグの『ヴィデオドローム』(1982)、『ザ・フライ』(1986)などの人体の変化、デヴィッド・リンチの『エレファント・マン』に見られる異形の存在など、あらゆるホラー映画の要素をこれでもかと取り入れ、自身の世界を構築する素晴らしいもの。ホラー好きならたまらない場面の連続となっている。

 後半に進むに従って、目が離せなくなっていく本作。142分という上映時間を聞いて、若干長いのでは?と思うかもしれないが、あっという間に時間が過ぎるのを感じるはずだ。特に後半の展開は凄まじく、自分が観た試写室でもやり過ぎ演出に対する笑い声や、あまりの地獄絵図に呆然とした空気感が充満していた。また音響デザインが大変素晴らしく、家庭では再現できないレベルなので、映画館で観る価値は極めて高い。

 主演のデミ・ムーアは本作でゴールデングローブ賞主演女優賞を受賞。アカデミー賞も有力視されていたが、ご存知のように『ANORAアノーラ』(2024)のマイキー・マディソンにオスカー像は渡ってしまった。だがこれを観たら、誰もがデミの頑張りを認めたくなってしまう。そして大満足で劇場を後にできることを約束したい。

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デミ・ムーアがとんでもない姿になる変身スリラー クライマックスは阿鼻叫喚の地獄絵図 『サブスタンス』

飯塚克味(いいづかかつみ)
番組ディレクター・映画&DVDライター
1985年、大学1年生の時に出会った東京国際ファンタスティック映画祭に感化され、2回目からは記録ビデオスタッフとして映画祭に参加。その後、ドキュメンタリー制作会社勤務などを経て、WOWOWの『最新映画情報 週刊Hollywood Express』の演出を担当した。またホームシアター愛好家でもあり、映画ソフトの紹介記事も多数執筆。『週刊SPA!』ではDVDの特典紹介を担当していた。現在は『DVD&動画配信でーた』に毎月執筆中。TBSラジオの『アフター6ジャンクション』にも不定期で出演し、お勧めの映像ソフトの紹介をしている。


【作品情報】
サブスタンス
2025年5月16日(金)全国ロードショー
配給:ギャガ
(c)2024 UNIVERSAL STUDIOS

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