どら焼き屋「どら春」

春。アパートで1人暮らしをしている千太郎は、桜並木の近くにあるどら焼き屋「どら春」の雇われ店長をしている。無邪気な女子中学生3人組や無口な女子中学生のワカナが、「どら春」の常連客である。ある日、ワカナが店にいる時、アルバイト募集の貼り紙を見た吉井徳江という女性が働きたいと言ってくる。76歳の徳江には難しいと考えた千太郎は断り、どら焼きを徳江にあげる。

徳江のあん

その日のうちに徳江が「どら春」に戻ってきて、指が不自由なために時給が下げてもらってで働きたいと話す。再度断る千太郎に、徳江は自作の粒あんを置いて帰っていく。粒あんを食べてみた千太郎は、普段使っているあんとは香りも味も全然違うことに驚く。そば屋で会った千太郎から徳江のあんの話を聞いたワカナは、「働かせてあげればいいのに」と話す。

あん作り

初夏。店にやって来た徳江に、働いてくれるように頼む千太郎。徳江は喜ぶ。一方で、電話を持っていないという徳江に、千太郎は戸惑う。徳江は、千太郎が業務用のあんを使っていたことに失望する。翌朝、太陽が昇る前からあん作りを始める徳江と千太郎。徳江が手間ひまをかけてあんを作ることに、千太郎は驚く。

評判になるどら焼き

ようやくでき上がったあんで作ったどら焼きを食べた千太郎は、そのおいしさに驚く。甘党ではないことを明かす千太郎に、徳江は不思議がる。新しくなったどら焼きは評判になり、客が増えていく。一方ワカナは、少年から頼まれて絵本を読んであげ、家で飼っているカナリアをなんとかするように母親から言われる。

徳江のウワサ

夏。行列ができるほど「どら春」の客が増え、手が足りないために徳江も店に出るようになる。喜ぶ客の姿に、徳江もうれしくなる。ある夜、「どら春」のオーナーの女性がやって来て、徳江がハンセン病であるウワサを聞いたことを話す。徳江の住所がハンセン病患者の施設であることを知ったオーナーは、徳江をやめさせるように話す。オーナーが帰ったあと、千太郎は物を床にたたきつけ、酔いつぶれるほど酒を飲む。

1人で店を切り盛りする徳江

朝、徳江からの電話で目を覚ました千太郎は、今日は休みにすると徳江に話す。あんだけを作って帰ろうとした徳江だったが、客がやって来たために店を開け、皮も自分で焼いて接客をする。どら焼きは完売する。店にやってきたワカナと話をした徳江は、ワカナの若さをうらやましがる。翌朝、店に出た千太郎は、徳江から店を1人で切り盛りした話を聞く。千太郎は徳江に接客もお願いすることにし、徳江は喜ぶ。

ハンセン病

女子中学生やワカナと話をする徳江は、「自由なんだから、もっと好きなことをやればいい」と話す。指について聞くワカナに、徳江は「若い時に病気して」と答える。ワカナは図書館でハンセン病について調べる。秋になる頃、「どら春」には客がまったく寄りつかなくなってしまう。自分の病気が原因と察した徳江は、店に来なくなってしまう。

徳江の手紙

千太郎の元に徳江から手紙が届く。手紙には、あんを炊いている時にはあずきの言葉に耳をすましていたこと、すべての物は言葉を持っていると思っていること、世間の無理解について話しておくべきだったこと、千太郎はいつか自分のどら焼きを完成させられる人であることが書かれている。店にやって来たワカナは、飼っていたカナリアのマーヴィーが家で飼えなくなったこと、徳江に飼ってもらう約束をしていたことを話す。

再会

ワカナの発案で、千太郎とワカナは徳江のいるハンセン病の施設に向かう。施設で2人は、徳江と友人の佳子と会う。最近食欲がないという徳江は、少し元気がない。自分が考えたぜんざいを2人に食べさせた徳江は、塩コンブや梅が合うことを話す。徳江は千太郎に楽しかったことを涙ながらに話し、それを聞いた千太郎も涙をこらえる。

徳江の死

季節は秋になる。新しいどら焼きに挑戦する千太郎だったが、オーナーは店を改装してお好み焼き屋とどら焼き屋を併設することに決める。千太郎のいらだちは募る。ある日、千太郎を探すワカナは、ハンセン病の施設で千太郎を見つけ、2人で徳江の元に向かう。だが、佳子から徳江が3日前に亡くなったことを告げられる。

徳江のメッセージ

千太郎は佳子から、徳江が料理に使っていた道具を受け取る。さらに、徳江が亡くなる前に残していた、テープに吹き込まれたメッセージを聞く。テープには、鳴き声が「自由になりたい」と言っているように聞こえたためにマーヴィーを放したこと、千太郎がかつての自分のように悲しい目をしていたこと、人はこの世を見聞きするために生まれてきたこと、だから誰にも生きる意味があることが吹き込まれている。春になる。徳江の道具でどら焼きを作った千太郎は、花見の客に「どら焼き、いかがですか!」と大きな声をかける。

人物 1 あん

吉井徳江

俳優:樹木希林 吉井徳江は、どら焼き屋「どら春」を手伝うことになる、映画「あん」の登場人物。76・・・歳。指が曲がっている。春にどら春に現れ、アルバイトとして雇ってくれるよう千太郎に頼む。いったんは断られるものの、自作のあんを千太郎に食べてもらい、雇われることになる。千太郎にあんの作り方や心構えを教え、新しくなったあんを使ったどら焼きは大人・・・
人物 2 あん

千太郎

俳優:永瀬正敏 千太郎は、どら焼き屋「どら春」の店長である、映画「あん」の登場人物。オーナーでは・・・なく雇われ店長。小さな店舗に置かれた鉄板で自作の皮を焼いているが、うまく作れないためにあんは業務用を購入して使用している。常連客の女子中学生のワカナに作りそこねた皮をタダであげている。実は甘いものよりも酒が好きで、どら焼き1個を食べられない・・・
人物 3 あん

ワカナ

俳優:内田伽羅 ワカナは、「どら春」の常連客である、映画「あん」の登場人物。中学3年生で、母が高・・・校進学に消極的なこともあって進路に悩んでいる。「どら春」でできそこないの皮をもらって食べるなど、つつましい生活をしている。黄色いカナリアのマーヴィーを家で飼っているが、アパートはペット禁止のために母親から何とかするように言われている。部活動・・・
セリフ・名言 1 あん

女子中学生1「なんか、桜の花びら入ってる。千ちゃん、これなんか桜の花びら入ってるんですけど」

0:05:30頃 どら焼き屋「どら春」の常連客である女子中学生3人。店で作ってい・・・るどら焼きに桜の花びらが入っているのを見つけた女子中学生たちが、冗談まじりに話す会話。「千ちゃん」とは、店長の千太郎のことである。 ・・・
セリフ・名言 2 あん

徳江「時給300円でいいのよ、300円で」

0:07:50頃 どら焼き屋「どら春」に貼られている「アルバイト募集」のチラシを・・・見た徳江が、応募したいことを店長の千太郎に話す。だが76歳と高齢の徳江に、千太郎はすぐに断る。徳江は時給が安くてもかまわないと話すものの、千太郎の考えは変わらない。 ・・・
セリフ・名言 3 あん

徳江「見ての通り、指が少し不自由なのね。だから、もう少し・・・あの安くていいのよ。200円」

0:12:45頃 どら焼き屋「どら春」に貼られている「アルバイト募集」のチラシを・・・見て、どうしても働きたいと思った徳江。いったんは店長の千太郎に断られるものの、その日のうちにまたやって来る。徳江にとって働きたい理由は金ではなかった。 ・・・
音楽 1 あん

水彩の月

「水彩の月」は、「あん」の主題歌として制作された、秦基博が2015年にリリースし・・・たシングル曲。ミュージック・ビデオには、「あん」に登場したどら焼き屋「どら春」や、出演している樹木希林、永瀬正敏、内田伽羅が登場する。 ・・・
キーワード 1 あん

評価、興行収入、製作

「あん」は、ドリアン助川による同名小説を映画化した作品。ドリアン助川が明川哲也名・・・義で河瀬直美監督作「朱花の月」(2011)に出演した縁から、原作を河瀬直美監督に送り、映画化の話が進んだという。撮影にあたって、キャストは映画内の登場人物と同じ部屋で寝泊まりするように求められ、撮影外でキャスト同士があまり会わないようにされ・・・
キーワード 2 あん

あん、どら焼き

タイトルにもなっている「あん」は、どら焼きのあんのことである。どら焼き屋「どら春・・・」の店長である千太郎は、自作ではなく購入した業務用のあんを使用していた。だが、徳江の作ったあんを食べて味と香りに感動し、徳江にあん作りをお願いする。徳江が手間ひまかけてあんを作ることに千太郎は驚く。徳江のあんを使ったどら焼きは評判となり、行・・・
キーワード 3 あん

どら春

どら春は、千太郎が店長を務めるどら焼き店。オーナーは別におり、甘党ではない千太郎・・・は借金を返すために雇われ店長として働いている。1個120円でどら焼きを販売しており、カウンターやテラス席で食べることもできる。店の真ん前には桜並木があり、どら焼きに桜の花びらがまざってしまったりもする。女子中学生3人組やワカナが常連客として・・・
作品一覧