チェロの仕事を失う

東京でオーケストラのチェロ奏者をしている小林大悟だったが、楽団の解散が決まる。妻の美香に仕事を失ったことと、チェロを買った時の1,800万円の借金があることを明かす。自分の才能では他の楽団を見つけることは難しいとわかっている大悟は、田舎の山形に帰ろうと考える。美香も大悟の考えに賛成する。

NKエージェント

かつて父が喫茶店をやり、父が愛人と家出してからは母がスナックをやっていた山形の実家に引っ越した美香と大悟。大悟は未経験者歓迎で高級保証のNKエージェントの求人広告を見つける。面接に行った大悟は、社長の佐々木から納棺の仕事であることを告げられる。ためらう大悟だったが、とりあえずやってみることにする。だが、美香には仕事の内容を言えず、「冠婚葬祭関係」と言ってごまかす。

腐乱死体

大悟は、NKエージェントの唯一の社員である上村百合子から、棺の種類によって値段が違うことを教わる。佐々木から電話で呼び出された大悟は、納棺を説明する業務用DVDに死体の役として出演する。その後、初仕事がやって来る。死後2週間経過した腐乱死体の処理を手伝わされた大悟は、作業中に嘔吐する。

しまってあったチェロと石

家に帰る途中、腐乱死体の処理で自分がにおうことに気づいた大悟は、昔通った銭湯「鶴乃湯」に行き、幼なじみの山下と母親の山下ツヤ子と再会する。山下は高齢の母親に鶴乃湯をやめさせたがっていた。家に帰った大悟は、つぶされたニワトリを見て嘔吐し、美香が心配する。大悟は美香の体を求める。夜中に眠れない大悟は、家に残されていたチェロを手に取り、一緒にしまわれていた石を見つける。チェロを演奏しながら大悟は、互いの気持ちを石に込めて父と交換した時のことを思い出す。だが大悟は、父の顔を覚えていなかった。

納棺師の仕事

川をのぼるシャケを見た大悟は、鶴乃湯の常連である平田と話をする。シャケはどうしても故郷に戻りたがっていると語る平田の言葉に、大悟はハッとする。佐々木とともに女性の納棺の仕事に向かった大悟は、佐々木が生前の頃の女性と同じように化粧を施し、女性が使っていた口紅で仕上げる様子を目の当たりにし、帰り際には女性の夫から「今まで一番きれいだった」と言われ、納棺師の仕事の素晴らしさを感じる。

鶴の湯

大悟は、美香と一緒に鶴乃湯に行く。美香はツヤ子から、両親が別れた時の大悟が銭湯で泣いていた話をし、大悟が自分1人で抱える面があることを話す。その夜、家に残されていた父のレコードを聞く大悟は、もしも父と会ったら殴ってやると話す。だが美香は、レコードを捨てなかった大悟の母親が、ずっと大悟の父を好きだったのではないかと話す。

実家に帰る美香

仕事にやりがいを感じるようになった大悟だったが、仕事を知った山下からウワサになっていることを聞かされ、やめるように言われる。また、仕事を知った美香からもやめるように頼まれる。はっきりした態度を取れない大悟を見た美香は、大悟に触れられると「穢らわしい」と叫び、実家に戻ってしまう。その後、納棺の仕事が他の人々からも蔑まれていることをがわかった大悟は、仕事をやめる決意をする。

初仕事

退職を伝えようとする大悟は、オフィスの2階の植物に囲まれた部屋で佐々木と話をする。佐々木は、9年前に亡くした妻を納棺したのが最初の仕事だったこと、人は生き物を食べて生きていることを話す。話を聞いた大悟は退職を思いとどまる。その後、大悟は納棺師としての初仕事をする。女性として生きられずに亡くなった男性に女性の化粧をして送り出した大悟は、父親から深く感謝される。

クリスマス

クリスマスの夜、NKエージェントのオフィスで佐々木や上村とフライドチキンを食べた大悟は、チェロでアヴェ・マリアを演奏する。佐々木と上村は演奏に聞き入る。大悟は納棺師として多くの仕事を重ねていく。さまざまな年代、さまざまな宗派の人々を送り出していく大悟は、納棺師として一人前になっていく。

ツヤ子の死

ある日、美香が帰って来て、妊娠したことを告げる。再び納棺師をやめるように頼む美香だったが、そこに鶴乃湯のツヤ子が亡くなった連絡が入る。かつて大悟に仕事をやめるように言った山下の前で、大悟はツヤ子の納棺を担当する。美香は初めて大悟の仕事を見る。美香は大悟の仕事について理解し、反対するのをやめる。

石文

ツヤ子の葬儀の時、鶴乃湯の常連である平田が火葬場の職員であることが明らかになる。平田は山下に、一緒に銭湯をやるようにツヤ子から去年のクリスマスに頼まれたこと、死は門だと思っていることを話す。葬儀の帰り道で、大悟は美香に河原の石を贈り、自分の気持ちに合った石を相手に贈る「石文」について語り、父親から教えてもらったことを明かす。美香は大悟が持っている石が、父親から贈られた石であることに気づく。

春になる。大悟の父親が亡くなったことを知らせる電報が届く。遺体の引き取りに行くことを拒否する大悟だったが、6歳の息子を捨てて家出した過去を明かした上村から行くように説得される。行くことにした大悟に、佐々木は会社の棺を持って行かせる。父と対面した大悟だったが、顔を思い出せない。自ら納棺することにした大悟は、父の手にかつて石文として自分が渡した石が握られているのを見つける。さらに、頬に綿をつめてヒゲをそってやり、忘れていた父の顔をはっきりと思い出し、涙を流す。そして父が握っていた石を手に取り、我が子の宿る美香のおなかに当てる。

人物 1 おくりびと

小林大悟

俳優:本木雅弘 小林大悟は、チェロ奏者から納棺師に転身する、映画「おくりびと」の登場人物。山形県・・・で生まれ育つ。喫茶店を開いていた父が小さい頃にウェートレスと家出し、喫茶店のあとをスナックにして働いた母親に育てられる。小さい頃に父に言われて始めたチェロを続け、チェロ奏者としてオーケストラの一員となる。2年前に母を亡くしたが、演奏旅行中で・・・
人物 2 おくりびと

小林美香

俳優:広末涼子 小林美香は、大悟の妻である、映画「おくりびと」の登場人物。大悟のことは「大ちゃん・・・」と呼ぶ。ウェブデザイナーの仕事をしている。チェロをやめて山形の田舎に帰ろうと話す大悟に賛成し、一緒に引っ越す。大悟の新しい仕事を「冠婚葬祭関係」と聞いて結婚式場と勘違いするものの、大悟が出演する納棺師の仕事を説明するDVDを発見。仕事内容・・・
人物 3 おくりびと

佐々木生栄

俳優:山崎努 佐々木生栄は、NKエージェントの社長である、映画「おくりびと」の登場人物。9年前・・・に妻に先立たれ、妻の納棺を手がけてから納棺師を仕事としている。オフィスの2階で多くの植物を育てており、網焼きの設備も整えている。 面接に訪れた大悟を、履歴書をまったく見ずに即採用を決める。戸惑う大悟に、月給50万円(現金日払いでもOK)を・・・
セリフ・名言 1 おくりびと

大悟(ナレーション)「東京から山形の田舎に戻ってもうすぐ2カ月。思えば、何ともおぼつかない毎日を生きてきた」

0:00:45頃 「おくりびと」の最初に語られるナレーション。吹雪の中を車の運転・・・をする大悟が語る。この2カ月に起こったことがこのあと描かれていき、同じシーンに到達した時に再び語られる(1:20:35頃)。大悟は納棺師というこれまでに思いもよらなかった職業を仕事にしているのだった。 ・・・
セリフ・名言 2 おくりびと

大悟「それではただ今より、故人さまの安らかな旅立ちを願いまして、納棺の儀、執り行わせていただきます」

0:02:55頃 納棺師として佐々木の下で働くようになった大悟が、初めて納棺を手・・・がけることになる。納棺を始める前に、大悟が遺族に対して語りかける言葉。遺族たちは遠慮がちに少し近づく。このあと、納棺はおごそかに執り行われる。 ・・・
セリフ・名言 3 おくりびと

大悟「ついてるんですけど・・・」

0:05:40頃 大悟が納棺師として初めての仕事を手がける。女性と思っていた遺体・・・の体を拭く大悟は、男性器がついていることに気づく。大悟は佐々木にそのことを冷静に報告する。自らも確認した佐々木は、遺族に死に化粧について相談する。 ・・・
音楽 1 おくりびと

交響曲第9番第4楽章/歓喜の歌

「交響曲第9番第4楽章」は、ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーベンが1824年に作曲・・・した交響曲で、「歓喜の歌」としても知られている。映画では、「時計じかけのオレンジ」(1971)や「ダイ・ハード」(1988)などで使われている。「おくりびと」では、大悟が所属するオーケストラが演奏するものの、客席はさびしい(0:08:00頃・・・
音楽 2 おくりびと

おくりびと

「おくりびと」は、音楽を担当した久石譲が作曲した楽曲。山形の家で大悟がチェロで演・・・奏するシーン(0:45:10頃)、残されていたレコードで大悟と美香が聞くシーン(1:03:15頃)、河川敷で大悟がチェロで演奏するシーン(1:28:35頃)で使われている。本編では使用されていないが、イメージソングとして、AI詞をつけて自ら・・・
音楽 3 おくりびと

アヴェ・マリア

「アヴェ・マリア」は、フランスの作曲家でシャルル・グノーが、ヨハン・ゼバスティア・・・ン・バッハの曲を伴奏に完成させた声楽曲。「おくりびと」では、クリスマスの夜に佐々木と上村からクリスマスらしい曲をリクエストされた大悟が、チェロで演奏する(1:26:00頃)。 ・・・
キーワード 1 おくりびと

評価、興行収入

「おくりびと」は、アカデミー賞の外国語映画賞を受賞する評価を受けた。日本アカデミ・・・ー賞では、10部門(作品賞、主演男優賞=本木雅弘、助演男優賞=山崎努、助演女優賞=余貴美子、監督賞、脚本賞、撮影賞、照明賞、録音賞、編集賞)で最優秀賞を受賞し、3部門(主演女優賞=広末涼子、音楽賞、美術賞)で優秀賞に選ばれた。興行的にも興行・・・
キーワード 2 おくりびと

山形県、ロケ地

「おくりびと」の主な撮影は山形県で行われた。以下の場所などで撮影されている。 ・・・■河川敷 大悟がチェロを弾く。飽海郡遊佐町の月光川の河川敷で撮影されている。 ■NKエージェント 酒田市日吉町にある、かつて割烹料理店だった建物が使われている。 ■コンサート会場 酒田市本町にあるホールで撮影されている。 ■美香が実家・・・
キーワード 3 おくりびと

納棺師、納棺

大悟が働くことになる職業は納棺師である。遺体を棺に収めるのが仕事で、亡くなった遺・・・体の体を拭き、死装束に着替えさせ、顔を剃って化粧を施す。死者の尊厳を保つため、着替えの時に肌が見えないようにするなど、気を使う部分が多い。 「おくりびと」では、亡くなった妻をきれいにしてくれたことに感謝の言葉を述べる夫、女性と思っていたら・・・
作品一覧